【研究実績の概要】屋内で長期間継代した虫は活動リズムに変異が生じることが判明している。飼育系統の累代数が増えたため、野外(つくば市内のキリの木)からチャバネアオカメムシ成虫を採集して、新たに飼育系統を確立した。具体的には、野外系統を2世代兄妹交配し、飼育数を十分に確保した上で、各種条件下における「薄明薄暮性」の活動リズムパターンの解析を行い、以下の結果を得た。①LED照明装置を用いて微弱光をチャバネアオカメムシに照射し、走光性や活動リズムを誘起する波長と強度を探索した。照明の明るさは電流値で調整して、虫に照射される光量子束密度を測定した。また、赤外線トラッキングシステムを用いて、二次元オープンフィールド上での歩行活動について光照射に対する走光性を解析した。さらに、高感度アクトグラフを用いて直径4cmプラスチック容器内での微小動作を検出し、活動リズムを詳細に解析した。以上の実験の結果、夕方の活動ピークの活動量が特定の光受容体の吸収波長に強く反応して抑制されることが判明した。つぎに、野外の自然環境条件下で、薄明・薄暮前後の時間帯におけるチャバネアオカメムシの活動リズムを測定し、活動を励起する極微弱光の光度を調査した。その結果、市民薄明よりも低照度で活動が励起され、上記、活動リズムの周期性との相関間関係も鑑み、0.01Lx以下の極微弱光を受容していることが強く示唆された。さらに、複眼の光受容体オプシン遺伝子のdsRNAマイクロインジェクションによるノックダウン実験により、色弱昆虫を作成したところ、波長選好性が著しく影響を受けた。これは脳内の情報変換より以前に、抹消組織での光受容シグナルが波長選好性を第一義的に支配していることを示唆している。
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