研究課題/領域番号 |
25660281
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
加藤 祐輔 独立行政法人農業生物資源研究所, 昆虫機能研究開発ユニット, 上級研究員 (60214409)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生物学的封じ込め / 遺伝子組換え生物 / 翻訳調節 / 非天然アミノ酸 / 合成生物学 |
研究実績の概要 |
(1)能動的封じ込め法による非天然アミノ酸に対する栄養要求性大腸菌株の作出:能動的封じ込め法とは、生物が実験室外に逃亡した時、その生物に致死的な効果をもたらす遺伝子が発現するように、遺伝的にプログラムして、逃亡を防ぐ方法である。ここでは、大腸菌に強毒性をもつRNA分解酵素コリシンE3と、それに対する抗毒素イムノE3の遺伝子を、大腸菌BL21-AI株に導入した。イムノE3の翻訳開始コドン直下にアンバー終止コドンを挿入し、非天然アミノ酸ヨウ化チロシンによるアンバー抑制を利用した翻訳スイッチによる制御下に置いた。作出した大腸菌株BL21-AI(IY,1amb-immE3)は、人為的にヨウ化チロシンを与えた培地では生育したが、ヨウ化チロシンがない培地では死滅した。このようにして、自然界に存在しない物質であるヨウ化チロシンに対する栄養要求性をもつ大腸菌株の作出に成功した。 (2)ヨウ化チロシン要求性大腸菌株の特性の解明:生物学的封じ込めを施した生物が、生存に必須な因子を遮断した後、どの程度の時間生き残ることができるかは、その生物による外界への影響を予測する上で重要である。そこで、培地中からIYを除去したあと、BL21-AI(IY, 1a-immE3)の生菌数の時間変化を計測した。生菌数は直ちに減少せず、1時間後まではむしろ増加が認められた。2時間以降は、生菌数は指数的に減少した(半減期は、約0.9時間)。生物学的封じ込めで問題となることのひとつは、致死条件に置かれても生き残るエスケーパーの発生である。わずかなエスケーパーが発生すれば、コントロールできない環境中での増殖につながる危険性がある。エスケーパーの発生率は、1.4 x 10-5 mutations/cell/generationと見積もられた。これは、71千分裂に1つのエスケーパーが生じることを意味する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
能動的封じ込め法については、実績概要のとおり、研究は想定以上に進展している。ヨウ化チロシン栄養要求性の大腸菌株の作出に成功した。また、封じ込め性能を評価する重要指標である、ヨウ化チロシン遮断後の生存率低下速度、エスケーパーの発生確率、および親株に対する相対的増殖速度を、精密に決定した。それにより、今後の研究の推進方策を明確に定めることができた。 一方、昨年度に主に推進した受動的封じ込め法については、ほぼ同一のアイデアに基づく研究が、他の研究グループにより、2015年1月に公表されたため(Rover et al., Nature 518, 89, 2015)、一旦凍結して、上記の能動的封じ込め法にエフォートを集中している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、能動的封じ込め法にエフォートを集中し、その限界性能を引き出すための工夫をこらす。高性能な翻訳スイッチへの置換、システムの多重化による性能向上を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
PCRプライマーや消耗試薬類の費用に、見積もりとの差額が生じた。実験結果に影響される避けられない誤差である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の同費目として繰り入れて、上記の理由による誤差の緩衝とする。
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