研究課題
挑戦的萌芽研究
細胞の発生や分化は、エピジェネティックな制御を受けている。エピジェネティック制御の基盤は、クロマチン構造と、細胞核の構造である。特に最近、細胞核内のアクチン繊維がエピジェネティック制御に関与する可能性が示されている。本研究では、核内のアクチン繊維のエピジェネティック制御を解明し、これを用いて細胞核レベルでの細胞分化や多分化能細胞作製などのエピジェネティックの人為的制御を目的としている。これまでに我々は、核内にアクチン繊維を人為的に形成した細胞の遺伝子発現変化を解析した。その結果、予想よりも多くの遺伝子が、核内のアクチン繊維形成に伴って発現変化を示すことが観察された。特に、遺伝子リプログラミングに中心的な役割を果たすOct4の発現が上昇したことは、今後、核内の人為的なアクチン繊維形成を多分化能細胞作製に利用する上において、大変興味深い。さらに、連携研究者と協力して、核移行シグナルを付加したアクチンを構造的に発現するES細胞の構築を試みた。現在、いくつかのクローンを得ており、これらのクローンにおける核内アクチンの存在、および核内でのアクチン繊維の形成の観察を行っている。さらに、核内のアクチン関連タンパク質をノックダウン、あるいはノックアウトした細胞を解析することにより、これらのアクチン関連タンパク質が細胞核内でのアクチンダイナミクスに関与することを観察した。これまでにも、細胞質ではアクチン関連タンパク質であるArp2/3がアクチン骨格形成の制御を行っていることが報告されていることから、この結果は、細胞核内でのアクチンファミリー間での相互作用によってアクチン機能が制御されていることを示すものである。
2: おおむね順調に進展している
細胞核内にアクチンを導入してアクチン繊維を形成する実験系を用いることで、核内のアクチン繊維が、遺伝子発現制御において、大きな影響を与えることを確認することができた。とくに、遺伝子リプログラミングに重要な役割を果たすOct4の発現にも核内アクチン繊維が関連していたことから、この結果は、今後の多分化能細胞の作成に核内アクチン繊維を応用する上に置いても重要である。また、これまで核内でのアクチン繊維の形成や解離のメカニズムについては、ほとんどが不明であったが、細胞質だけでなく、細胞核においても、アクチンファミリー間の相互作用がその制御に重要であることを初めてしめすことができた。
これまでに作成した実験系を用いて、細胞核内のアクチン繊維が遺伝子発現制御に与える影響について、その分子機構を明らかにする。そのために、アクチンモノマーやアクチン繊維を特異的に検出できるプローブを用いて、細胞染色やクロマチン免疫沈降などを行う。さらに、この細胞に対してiPS細胞作製用のコンストラクトを導入し、iPS細胞形成の効率などを比較解析する。また、核内にアクチン繊維が形成できるES細胞を取得し、このES細胞を用いて、細胞分化や遺伝子発現などを解析する。
当初は、核内のアクチン繊維形成にともなって発現が変化する遺伝子に着目して、それらの遺伝子の詳細な遺伝子発現変化や、クロマチン免疫沈降によるクロマチンタンパク質やアクチンとの結合を解析する予定であった。しかし、予想よりも多数の遺伝子が核内アクチン繊維によって影響を受けることが明らかとなったため、ここの遺伝子の解析に移行する前に、これらの遺伝子群についてのcDNA取得などを行う必要が生じた。上記のような、核内のアクチン繊維形成に伴ってその発現が変化する一群の遺伝子の解析を行うための試薬など、消耗品費として、2014年6月ごろまでに次年度使用分を用いる。
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