クロマチンは、エピジェネティック制御の分子基盤である。クロマチン機能は、その構造と、細胞核内空間配置によって制御されている。遺伝子初期化の過程で細胞核内にアクチンフィラメントが形成されることからも、核内アクチンによるクロマチン核内空間制御がエピジェネティック制御に重要であることが示されている。我々は、これまでに核内アクチン繊維を人為的に作成・制御することに成功している。この実験系を用いて、エピジェネティック制御の人為的操作基盤の創出を目指した。核内アクチン繊維の遺伝子発現への影響を解析したところ、Oct4を含む多くの転写制御因子に核内アクチン繊維が関連していることが示された。また、核内アクチン繊維を形成した細胞では、細胞分化に影響が観察され、核内アクチン繊維の細胞分化への関与も示された。核内アクチン繊維が転写に影響を与える分子メカニズムの一つとして、Win/beta-cateninシグナルへの影響を考え、その検証を行った。その結果、核内アクチン繊維の形成によって、核内のbeta-catenin量が増加した。また同時に、Wnt/beta-cateninターゲット遺伝子へのbeta-catenin結合が増加し、遺伝転写量の増加も観察された。興味深いことに、これらの遺伝子上流クロマチンへのアクチン繊維の結合も観察された。これらの結果は、核内のアクチン繊維が、核内のb-cateninの存在量や状態を変化させることにより、エピジェネティック制御に寄与していることを示唆している。
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