研究課題/領域番号 |
25660288
|
研究種目 |
挑戦的萌芽研究
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神崎 亮平 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (40221907)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | バイオセンサ / 昆虫 / 嗅覚受容体 / 応答予測 |
研究概要 |
昆虫嗅覚受容体を発現させたSf21細胞を検出素子とする匂いセンサの匂い選択性は、導入する嗅覚受容体の応答特性に依存する。そのため、目的の匂い物質(対象臭)を検出できる匂いセンサの開発には、各受容体の応答特性を明らかにし、対象臭の検出に最適な受容体を選択する必要がある。本研究では様々な化学構造の匂い物質に対する嗅覚受容体の応答特性を集約したデータベース(DB)、及び嗅覚受容体の応答予測に基づく対象臭の検出に最適な受容体を選択するシステムの構築により、対象臭を検出できる匂いセンサの構築手法の確立を目指す。平成25年度では、①嗅覚受容体の応答特性解析、②嗅覚受容体の応答予測システムの開発、③嗅覚受容体発現細胞をアレイ化した匂いセンサの構築を実施した。 ①キイロショウジョウバエ一般臭嗅覚受容体及び補助タンパク質Orcoの発現ベクターを新たに作製し、カルシウム感受性蛍光タンパク質遺伝子とともにSf21細胞に遺伝子導入することで、導入した嗅覚受容体の応答特性に従って蛍光強度変化を示すSf21細胞の作出技術を確立した。また、DB構築に向けて、性フェロモン受容体を発現させたSf21細胞を対象に、蛍光マイクロプレートリーダを用いた複数種の匂い物質への細胞の蛍光応答の取得技術を確立した。 ②匂い物質に対する嗅覚受容体の既知の応答データを利用し、匂い物質の分子記述子から嗅覚受容体の応答を予測できる学習器を試作した。現在、分子記述子の選抜による予測精度の向上を進めている。 ③ソフトリソグラフィ技術を用いて、ジメチルポリシロキサンとホウケイ酸ガラスから成り、2種類の細胞系統を独立して並列配置できるマイクロ流路チップを試作した。性フェロモン受容体を発現させた2種類のSf21細胞系統をマイクロ流路チップ上に並列配置し、受容体が応答するフェロモン成分を供給することで、細胞系統の蛍光応答が取得できることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度では、これまでに代表者のグループで確立してきた匂いセンサ素子としての受容体発現Sf21細胞系統の作出技術が、キイロショウジョウバエの一般臭嗅覚受容体にも適用できることを示し、一般臭を蛍光強度変化量として検出できるSf21細胞の作出技術の確立に初めて成功した。現在、同手法に従い研究を発展させ、計5種類の一般臭嗅覚受容体を対象に、Sf21細胞の作出を進めている。また、現段階ではカイコガ性フェロモン受容体を発現させたSf21細胞系統ではあるが、96ウェル同時に計測が可能な蛍光マイクロプレートリーダを用いて、複数種類の匂い物質に対するSf21細胞の蛍光応答を計測する技術の確立にも成功した。これら二つの技術は、数多くの一般臭嗅覚受容体を対象に数多くの匂い物質に対する応答データを網羅的に取得するための基礎技術であり、本研究の目的である嗅覚受容体の様々な匂い物質に対する応答特性を集約したDBの構築を飛躍的に加速化させる成果である。 また、2種類の受容体発現Sf21細胞系統を並列配置したセンサチップを試作した。本内容は平成26年度に実施予定であったが、前倒して実施した。現段階では2種類であるものの、複数種類のSf21細胞系統をアレイ化できるセンサチップのプロトタイプの試作に成功した。 以上の成果を総合的に判断して、現在までの達成度を「おおむね順調に進展している」ものと判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、平成25年度に確立した技術を発展させ、複数種類の一般臭嗅覚受容体の応答特性データを集約したデータベース(DB)を構築する。そしてDB及び応答予測に基づき選択した嗅覚受容体を発現させたSf21細胞系統を作出し、対象臭を効率的に検出できる匂いセンサチップの構築を目指す。具体的には、①嗅覚受容体の応答特性解析で、複数種類の一般臭嗅覚受容体を対象に、受容体を発現させたSf21細胞を作出する。蛍光マイクロプレートリーダを用いて、応答が明らかな物質、未試験の物質各100種類ずつ、計200種類の匂い物質に対する蛍光強度変化量を測定し、応答特性を集約したDBを構築する。②嗅覚受容体の応答予測システムと受容体選択アルゴリズムの開発で、①で実測した応答特性データを教師データとして含め、分子記述子を選抜することで応答予測システムの予測精度の向上を図る。応答予測システムは、さらに広範な匂い物質にまで応答予測を拡張させる。応答予測システムによる予測データと実測した応答特性データを活用し、多変量解析を利用した受容体選択アルゴリズムにより、背景臭から対象臭を最も良く分離する嗅覚受容体の組み合わせを選択する。③嗅覚受容体発現細胞をアレイ化した匂いセンサで、平成25年度に作製したマイクロ流路チップ上に②で選択した嗅覚受容体を発現させたSf21細胞系統をアレイ化したセンサチップを作製し、対象臭や背景臭に対する応答測定を行うことで検出性能を評価する。これにより対象臭を検出できる匂いセンサチップの構築技術を確立する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度では、少数の一般臭嗅覚受容体に対象を絞り、一般臭に蛍光応答を示すSf21細胞系統の作出技術の確立に注力した。そのため、研究当初の予定よりも少ない計5種類の嗅覚受容体を対象としたSf21細胞系統の作出、細胞の系統維持、及び蛍光応答の計測に留まった。平成26年度では、平成25年度の研究を発展させ、対象とする嗅覚受容体の数を増加させ、Sf21細胞系統の作出、細胞の系統維持、及び蛍光応答の計測を計画している。以上の理由から、次年度使用額が生じた。 平成25年度に作出したSf21細胞系統の系統維持、及び蛍光応答の計測に加え、平成26年度で対象とする数多くの嗅覚受容体で新たに作出するSf21細胞系統の系統維持、及び蛍光応答の計測に次年度使用額を充てたい。
|