研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究は、「生物の寿命が如何にして決まるのか?」について理解し、その成果をヒトの健康長寿社会の実現に貢献する創薬ターゲットの開発につなげることを目的としている。そのため、高等真核生物と細胞レベルでの寿命制御機構に類似性が指摘されているモデル微生物の分裂酵母を対象に、細胞寿命を制御する因子の同定と機能解析を以下の具体的項目に関して進めた。(1)長生き変異株の解析経時寿命が延長する新しい長生き変異株を4種分離し、次世代シークエンサーによって変異点を同定した。経時寿命延長に関与する変異遺伝子を確定するため、遺伝学的解析を進行中である。上記以外の長生き変異株として、P型プロトンATPase Pma1の新たな活性低下型変異株や、分裂酵母の呼吸に関わる転写因子Php2の欠失株を同定した。(2)長生き遺伝子の解析高発現することにより分裂酵母の経時寿命を延ばす因子をスクリーニングし、複数の候補遺伝子を取得した。この中から、グアニン4重鎖(G4)構造への結合が予想されるOga1タンパク質が出芽酵母のStm1の機能的ホモログであること、細胞寿命の延長因子であることを証明した。解析の過程で、Oga1高発現時の表現型とTor1欠失株の表現型が類似していることに気付いた。TORタンパク質は真核生物に広く保存されたキナーゼで栄養に応答して各種細胞機能の制御を行い、寿命制御にも関与することが知られている。そこで、Oga1高発現時とTor1欠失株に共通して見られる表現型をもとに両者の関係を遺伝学的に解析したところ、Oga1がTor1の下流に存在しTor1により負の制御を受ける可能性を示唆する結果を得た。したがってTOR経路の寿命制御における新たな候補因子としてOga1を提示することができた。以上の解析を通して細胞寿命の制御因子に関する具体的知見が飛躍的に蓄積した。
1: 当初の計画以上に進展している
分裂酵母から経時寿命に関わる因子を取得解析する目標においては、新規長生き変異株を4株、これ以外にPma1とPhp2の変異株を同定できた。加えて、長生き遺伝子についても新たに7種を報告し、そのうちOga1については詳細な解析によりグアニン4重鎖結合タンパク質であること、Tor1経路と機能的に相互作用する可能性を示すことができた。このように、当初の予想以上に多くの寿命因子の抽出とその機能解明が進んだ。今後は、これら因子の機能・構造相関について詳細に解析を進め、その知見をもとに活性制御を可能とする化合物のスクリーニング、設計、合成を通して、創薬ターゲットの開発に展開することが期待される。
初年度の研究において取得同定した経時寿命制御因子ならびにその候補因子について、分裂酵母を用いて詳細な機能の解明を進める。具体的には、4種類の新規長生き変異株の原因遺伝子の同定と機能の解明、長生き遺伝子7種類の機能と寿命制御における役割の解明を中心に研究を行う。その後、高等生物にも保存された因子に焦点を当て高等生物の寿命制御における役割を解析する。これらの解析を通して、酵母から高等生物まで寿命制御における機能の類似性が確認された因子に着目し、構造と機能相関に関する解析ならびに本因子をターゲットとした分子標的化合物のスクリーニング・設計・合成に関する共同研究を実施し、ヒトの健康長寿に資する新規創薬ターゲットの開発に向けた研究展開を図る。
大学当局から授業料(校費)が年度途中に追加配分され、本研究課題に係わる旅費ならびに物品費に充当することができた。また、研究実施において試薬等の節約ならびに購入価格の値引き交渉を行った結果、当初予定より支出が少なくなった。次年度使用額は、翌年度助成金と合わせ主に試薬等の消耗品の購入、遺伝子解析(遺伝子配列解析の外注、合成DNA購入など)等に充てる。特に、初年度の成果によって解析すべき変異株や新規遺伝子が飛躍的に増加したので、これらの解析に係わる経費に当てる予定である
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