本研究では、「生物の寿命が如何にして決まるのか?」について理解し、その成果をヒトの健康長寿社会の実現に貢献する創薬ターゲットの開発につなげることを目的とした。そのため、高等生物と細胞レベルでの寿命制御機構に類似性が指摘されている分裂酵母を対象に、細胞寿命を制御する因子の同定と機能解析を以下の2つの方針に従って進めた。 (1)長生き変異株の解析 経時寿命が延長する新しい変異株をスクリーニングし、次世代シークエンサーを用いて経時寿命延長に関与する遺伝子を同定した。当該変異と既知の寿命延長経路との遺伝学的解析を進めるのと並行して、各種表現型の解析を進めた結果、当該遺伝子機能に関する特徴付けが進んだ。特に、劣性変異と同定した3変異株については、当該遺伝子産物の活性を低下させることで寿命が延長することが示唆された。従って、当該遺伝子産物の活性を抑制する薬剤により寿命を延長できる可能性があり、創薬ターゲット開発に向けた基盤的知見が蓄積できた。 (2)長生き遺伝子の解析 経時寿命を延長する因子として見いだしたEcl1ファミリー遺伝子に関して、その欠損株では、亜鉛枯渇に応答した性的分化が損なわれること、Ecl1ファミリータンパク質は亜鉛のセンサーとして機能することを見いだした。他方、高発現することにより分裂酵母の経時寿命を延ばす因子のスクリーニングを繰り返し、複数の候補遺伝子を取得した。この中から、グアニン4重鎖(G4)構造への結合が予想されるOga1タンパク質が出芽酵母のStm1の機能的ホモログであること、細胞寿命の延長因子であることを証明した。解析を進めた結果、Oga1はTor1の下流に存在し、Tor1により負の制御を受ける可能性を示唆する結果を得た。したがってTOR経路の寿命制御における新たな候補因子としてOga1を提示することができた。 以上の解析を通して細胞寿命の制御因子に関する具体的知見が飛躍的に蓄積した。
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