研究課題
挑戦的萌芽研究
6-octadecynoic acid (6-ODA)の合成については、petroselinic acidを初発物質として、効率よく合成する方法を確立した。そしてまず、3T3-L1細胞を用いた脂肪分化系で、6-ODAによるPPARγ依存的な脂肪蓄積促進を確認した。次に、脂肪酸は水に溶けにくいため、培地に添加するまでの脂肪酸溶液の調製方法について再検討した。0.1N NaOHで溶解し、加温とボルテックスをする事で完全に溶解させた。次にキャリアとなる10% BSA溶液を用いて、溶液を希釈し、これを以降の実験に用いることにした。三重結合を有する脂肪酸の6-ODAと9-octadecynoic acid (9-ODA)が脂肪毒性を有するかについて、小胞体ストレスの惹起を指標に検討した。小胞体ストレスマーカーのCHOPの発現誘導を、ウェスタンブロット法で抗CHOP抗体を用いて検出することで、ストレス誘導を評価した。脂肪毒性を有するという報告のあるパルミチン酸は、500 μMの濃度で明らかにCHOPの発現を誘導したが、同濃度の6-ODAや9-ODAでは明らかな誘導は観察されなかった。一方、500 μMパルミチン酸によるCHOPの誘導は、不飽和脂肪酸のオレイン酸を500 μMの濃度で添加することで回復する一方で、6-ODAと9-ODAでは明確な回復は観察出来なかったが、100 μMのパルミチン酸によるCHOPの誘導を、500 μM の6-ODAや9-ODAは、500 μMオレイン酸と比較するとかなり弱いながら抑制する傾向が観察された。6-ODAと9-ODAの、脂肪酸受容体GPR40を介したインスリン産生誘導について検討する前段階として、MIN6細胞の培養上清中のインスリン量を、HTRF法を用いた測定系で測定可能であることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
6-ODAの合成については、収率良く合成する方法を確立し、量的に確保出来るようになり、合成に関しては目標を達成している。三重結合を有する脂肪酸である6-ODAと9-ODAについては、飽和脂肪酸のパルミチン酸のように脂肪毒性を有するのか、それとも逆に二重結合を一つ有する不飽和脂肪酸のオレイン酸のようにパルミチン酸による脂肪毒性を防御出来るのかについて、小胞体ストレスの発生を指標に、マーカーであるCHOPの発現で評価したところ、6-ODAと9-ODA自身の脂肪毒性は低いが、パルミチン酸による脂肪毒性を回避させる活性は、オレイン酸と比較してかなり弱いと思われた。用量を変化させるなどの検討を加えて、結果の再現性を確認する必要があるが、こちらも予定通り、研究は進行している。膵臓β細胞株MIN6を用いて、6-ODAと9-ODAが脂肪酸受容体GPR40を介してインスリン分泌を促進するかについては現在検討中であり、測定系は確立したので、次年度の前半には結果が得られると思われるので、こちらも、目標達成に向けて概ね順調に、研究は進められている。その他の6-ODAの生物活性としては、抗菌活性が報告されている。Candida albicansに対して、6-ODAは抗菌活性を示すが、9-ODAは6-ODAが十分に抗菌活性を示す濃度で抗菌活性を示さないことが報告されており、そのメカニズムについて検討すべく、抗菌活性評価系の習得を行っており、全体的に本研究は1年目の予定を達成している。
6-ODAと9-ODAの脂肪毒性に関しては、用量を変化させるなどして、それら自身は脂肪毒性が殆ど無いこと、逆に飽和脂肪酸のパルミチン酸による脂肪毒性に対して、1つ二重結合を有するオレイン酸と比較して、弱いながらも回避させる活性を有することの再現性を確認する。更に脂肪毒性を小胞体ストレスマーカーのCHOPのみで評価しているが、他のマーカーについても併せて検討する。膵臓β細胞株MIN6におけるインスリン分泌を、6-ODAと9-ODAがGPR40依存的に促進するかについては、グルコース濃度依存的なインスリン分泌が見られるかについても検討することにし、GRP40のアンタゴニストで抑制されることを示すことで、GPR40依存的なインスリン分泌促進であることを示す。抗菌活性については、Candida albicansに対して、6-ODAは抗菌活性を示すが、6-ODAが十分抗菌活性を示す濃度で、9-ODAは抗菌活性を示さないことが報告されているので、その再現性の確認と、メカニズム解明を行う。6-ODAが抗菌活性を有する濃度で、Candida albicansの生存に必要な因子の枯渇や、脂肪毒性によって抗菌性が発揮されている可能性について、それらを回避する可能性のある化合物を添加することで抗菌活性が抑制されないかについて検討する。またマウスを用いたカラギナン腹腔投与による簡易炎症評価系によって、6-ODAと9-ODAの前投与により炎症が抑制されないかについて検討する。
ほぼ予定額を使用したが、若干の端数が生じたため、次年度に使用する事にした。次年度に繰り越した端数分は、消耗品費として使用する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 440 ページ: 204-209
10.1016/j.bbrc.2013.09.003