三重結合を有する珍しい脂肪酸である6-octadecynoic acid(6-ODA)が、核内受容体のperoxisome proliferator-activated receptor γ (PPARγ)のアゴニストとして機能することを発見したことを端緒に、6-ODAのような三重結合を有する脂肪酸の機能について研究を進めた。まず、パルミチン酸のような飽和脂肪酸は、細胞に対して小胞体ストレスを生じさせて脂肪毒性を発揮するが、これに対してオレイン酸のような不飽和脂肪酸は保護的に働くことが知られている。そこで、パルミチン酸による脂肪毒性を6-ODAが抑制出来るか検討したところ、オレイン酸と比較して弱いながら、パルミチン酸による小胞体ストレスを抑制する活性があることを示す結果を得た。また6-ODAは脂肪酸の一種であることから、細胞膜上にあるGタンパク質共役型受容体である脂肪酸受容体GPR40を介して作用しうるか検討した。膵臓β細胞株のMIN6細胞を用いて、その細胞上に発現しているGPR40を介して、インスリンの分泌が促進されるか検討した。その結果、6-ODAは用量依存的にインスリンの分泌を促進し、このインスリン分泌促進活性はGPR40のアンタゴニストであるGW1100で抑制されたこと、GPR40のsiRNA処理で抑制されたことから、GPR40を介していることが示された。三重結合を有する脂肪酸については、抗菌活性等の生物活性は知られているが、それ以外はあまり生物活性が知られておらず、三重結合を有する脂肪酸の新たな活性の報告となった。
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