研究課題/領域番号 |
25670001
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山口 雅彦 東北大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (30158117)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 振動反応 / Belousov-Zhabotinsky反応 / 配位子 / 金属錯体 / 非平衡系 / ヒステレシス |
研究概要 |
規則的振動は生物機能に広く見られる現象であり、分子レベルにおける振動現象が伝達されて、生物機能発現に至っていると考えられる。従って、生体振動現象を理解するためには分子レベルの振動現象を理解するとともに、分子レベルからバルクレベル振動現象に連動する機構を解明する必要がある。色の変化が周期的に起こるBelousov- Zhabotinsky 反応はよく知られている。本申請ではこの反応の理解と制御に関する基礎的な研究を行なう。あわせて、新しい振動反応系を探索する。 平成25年度はフェロインのビピリジル配位子の効果を検討して、振動数、振幅および周期に関して整理した。実験的には電位測定を系時的に測定して比較した。ピピリジルとフェナントレン錯体で再現性よく多回数の振動を与えた。溶液の混合法を注意して検討して実験の再現性を確認した。従来は再現性に課題があったので、これを克服で来たことは意義がある。また、基質についてマロン酸以外にピロガロールなどが優れていることを見出した。有機溶媒中での反応を検討した。臭素酸カリウムの代わりに臭素酸テトラブチルアンモニウムを酸化剤に用いて、70%DMF/水溶液中でも十分な振動が認められた。 当初は予想していなかったが、ヘリセンオリゴマー誘導体で二分子会合形成において熱的ヒステレシスを発現した。すなわち加熱時と冷却時で異なる反応経路をとることを示した。この反応を詳細に検討した。また,反応機構のモデルを提唱した。振動反応と熱的ヒステレシスはかなり異なる現象のように見えるが、いずれも非平衡熱力学的な現象である。従って、いずれの物質系も類似の現象を示す可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)振動反応に関する基礎的な知見を蓄積することができ、Belousov- Zhabotinsky振動反応の制御に向けて着実に前進している。また,再現性の問題を解決できたことは重要である。 (2)加えて、当初予想していなかったが、ヘリセンオリゴマーによる熱的ヒステレシス発現を見出した。この現象について詳細な検討を行うことができた。これは全く新しい研究対象である。 (3)熱的ヒステレシスには自己触媒反応が含まれていることが示唆された。振動反応も自己触媒を含むとされているが、反応機構が極めて複雑で理論的な解析は行われているが、適切な系がないので実験的な解析が行えなかった。今回のヒステレシスは分子レベル現象であり、これ自体も大変珍しいが、実験的に精密に制御できる可能性がある。本研究によって振動現象、ヒステレシス、自己触媒反応が関連づけられることができれば、いずれも非平衡熱力学的な現象であることから、この分野の研究が大いに進むと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
前年度研究を継続する。 【1.溶液振動反応における触媒効果】配位子の合成を継続して、置換基が振動数、振幅および周期に与える影響を詳細に調べる。100%有機溶媒中の振動を実現する。振動の性質を制御する原理を解明する。【2.ヘリセンオリゴマーによる振動反応の開発】昨年見出したヘリセンオリゴマーの熱的ヒステレシスを詳細に検討する。とくに熱的履歴によって反応挙動が大きく変化する非平衡熱力学系の理解を進める。また、自己触媒反応の性質を調べる。合わせて振動を起こす可能性を探索する。 本年度以下を開始する. 【3.溶液振動反応における触媒効果】この振動反応は空間的時間的にランダムに起こるのではなく、溶液全体が一度に色調変化を起こす。この同期現象は分子間のコミュニケーションの存在を示唆する。自己触媒反応であるので、これについて検討する。【4.固体表面における振動反応】鉄錯体を固体表面に固定化して不均一系の反応を行なう。平面、曲面、球面などのさまざまな形状の固体表面に担持して、触媒を起点とした振動現象を検討する。例えば、ビーカーの底部,錯体を固定化したビーズやナノ粒子、棒状シリカなどを検討する。表面における振動現象の様子を検討する。 以上をもとに化学的振動現象を化学的物理的振動現象に連動する方法を提案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の使用計画額はほぼ満たしており、1,792円という小額のため、次年度へ繰越して使用することとした。 研究成果を挙げるための実験に必要な器具や装置の購入に使用する計画である。
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