研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究課題では、血漿中での高密度リポタンパク質(HDL)形成・構造維持を担うアポリポタンパク質A-I(アポA-I)が、各種脂質と均一サイズの開放構造を有する脂質膜ディスクを人工的に形成することに着目し、(1)アポA-Iの人工的改変によるディスクサイズ制御や構造安定性に優れた高機能化ディスク膜骨格タンパク質の創製(2)安定人工脂質を用いた膜タンパク質再構成系の構築と配向制御技術の開発などの目的膜タンパク質をナノサイズの微小脂質膜環境に再構成・配向制御するための方法論の開発(3)重金属結合タンパク質やABCトランスポータータンパク質の脂質膜ディスクへの組み込み・構造機能解析への応用を通じて、バイオセンサ・バイオリアクタ利用や1分子レベル構造機能解析に有用な新規HDL型膜ディスク/膜タンパク質再構成系の開発を目指している。平成25年度は、項目(1)と(2)に関し、(1)アポA-IのHDL型ディスク形成に関する物理化学的知見や方法論を基盤として、a) HDL形成能の高いヒトN末端領域の高機能化を目的とした部位欠失・置換型アポA-I変異体、b)高脂質親和性領域を模倣したアポA-Iフラグメントペプチドを、大腸菌発現系とFmoc固相法によりそれぞれ作成し、ディスクサイズ制御や動的・熱力学的構造安定性などの物理化学的特性を評価した。(2)機械的・熱的安定性の高い古細菌モデル脂質として分岐鎖型リン脂質を用い、大腸菌発現アポA-Iをディスク膜骨格タンパク質とした新規膜ディスクを創製するとともに、膜ディスクの形態や脂質膜微細環境、構造安定性評価を、透過型電子顕微鏡観察、蛍光プローブ法などの分光学的手法や熱測定法によって行った。また、膜タンパク質モデルとしてバクテリオロドプシンを用い、脂質膜ディスクへの再構成条件の検討も開始した。
3: やや遅れている
本研究課題では、膜タンパク質の脂質膜環境への組み込み・機能解析のための新規プラットフォームとして、高機能化脂質膜ディスクの開発を目的としている。そのための方法論として、(1)改変アポA-IやアポA-I模倣ペプチドの設計・創製によるディスク膜骨格タンパク質の高機能化、(2)古細菌モデル脂質やフッ素化リン脂質群などの安定化人工脂質のディスク脂質膜基材としての適用、を基盤としている。平成25年度は、項目(1)としては、HDL形成能の高いヒトN末端領域の高機能化を目的とした部位欠失・置換型アポA-I変異体や高脂質親和性領域を模倣したアポA-Iフラグメントペプチドを創製し、安定なHDL型脂質膜ディスクの作製に成功している。また項目(2)としては、古細菌モデル脂質として分岐鎖型リン脂質DPhPCを用い、大腸菌発現アポA-Iをディスク膜骨格タンパク質とした新規膜ディスクの創製に世界で初めて成功し、その脂質膜環境の評価を通常の直鎖型リン脂質と比較評価することで、今後の膜タンパク質組み込みのために必要な情報を得た。さらに、膜タンパク質モデルとしてバクテリオロドプシンを用いた脂質膜ディスクへの再構成条件の検討も開始したが、ターゲットとしている膜タンパク質の組み込みには到っていない。平成26年度には、膜ディスクへの重金属結合タンパク質やABCトランスポーターの組み込みと配向制御、さらには活性評価まで進展させる計画である。
平成25年度に得られた成果を基にして、開発した新規膜ディスクへの膜タンパク質組み込み・配向制御を検討する。(1)水銀やカドミウムなどの有害重金属の微生物による処理・排出を担っている重金属結合Merタンパク質群をターゲットとして、分岐鎖型リン脂質やフッ素化リン脂質などの安定化脂質を用いた膜ディスクへの再構成を行う。さらに、基板表面への膜ディスク固定化による膜タンパク質配向制御技術の開発を行う。再構成する膜タンパク質の末端残基に遺伝子工学的にHis-tagやbiotin残基を導入し、電極表面のtag結合性残基に対して配向を制御する形で吸着させるとともに、アンカー修飾基板を利用した脂質膜自体の固定化を同時に行うことで、膜ディスクの基板表面での配向制御を検討する。基板表面への膜ディスクの結合性は電気化学的水晶発振子型微小質量(ECQCM)やIR-RAS法などで、また膜中ヘリックスの配向方向は膜内分子配向評価装置によって、それぞれ検証する。上述の手法により重金属輸送タンパク質の膜ディスクへの配向制御再構成に成功した場合、重金属センサとしての利用可能性を探る。(2)ABCトランスポーターについては、平成25年度は進展が見られなかったが、平成26年度は、ヒト培養細胞または昆虫細胞を用いて発現させたABCA1やABCB1(MDR1)タンパク質を精製し、脂質膜ディスクへの再構成法を検討する計画である。ABCタンパク質は基質輸送とATP加水分解が共役しているため、ATP加水分解活性を測定することによりABCタンパク質の基質輸送活性を評価できる。そこで、種々の環境をもつ脂質膜ディスクへABCA1やMDR1を再構成しATP加水分解活性を測定することで、脂質膜環境がABCトランスポーター活性に与える影響を1分子レベルで解析する。
平成25年度は予定していた重金属結合タンパク質の作製を行わなかったため、そのための費用を翌年度に繰り越した。平成26年度は、繰り越した費用を使って重金属結合タンパク質の作製・精製を行い、膜ディスクへの組み込み・配向制御技術の開発を進める計画である。
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