研究課題
挑戦的萌芽研究
我々は、硫化水素アニオン(HS-)がその求核性の高さによって活性酸素由来の酸化生成物(親電子物質)を消去し、慢性心不全を改善する可能性を初めて明らかにした。しかし、揮発性の高いH2S/HS-が具体的にどのような機構で心筋レドックス恒常性維持に寄与するかについては全く不明である。そこで本研究では、レドックス感受性タンパク質の酸化修飾の可逆性・不可逆性を指標に、硫黄循環による新奇生体レドックス恒常性制御基盤を構築し、これを元に硫黄蓄積を主眼とした慢性心不全治療法の有効性を確立させることを目標に解析を行っている。具体的には、ヒト組み換えH-Rasタンパク質を用いて、H-Rasと最も特異的に反応する親電子物質(8-nitro-cGMP)の修飾(S-グアニル化)の可逆性・不可逆性について調べた結果、2-mercaptoehtanol (2-ME)グアニル化が50%以上減少することを新たに見出した。また、ポリ硫黄化タンパク質と特異的に反応するSSP2試薬を用いてH-Rasタンパク質と反応させた結果、確かに蛍光強度の増加が観察された。これらの結果は、H-RasのS-グアニル化修飾の標的部位であるCys184のSH基がポリ硫黄(Cys-S(n)H)を形成している可能性を示している。そこで、HEK293細胞にflag-H-Rasタンパク質を過剰発現させ、化学修飾薬を用いてパルミトイル化に対する2-MEの効果を検討したところ、H-Rasのパルミトイル化修飾については2-MEで減少するという結果は得られなかった。H-Rasのパルミトイル化部位は2か所あるため、現在、レドックス活性の低いCys181をLeuに置換した変異体を用いた検討も進めている。
3: やや遅れている
平成25年8月付で九州大学・准教授から現所属・教授に着任し、ラボの移動と立ち上げ、特に測定機器の新規購入・搬入に時間を要したことから、上記テーマ研究を十分に進めることができなかった。
活性硫黄と高い反応性を持つ親電子物質(メチル水銀)をマウスに投与し、活性硫黄の枯渇が血行力学的負荷に対する心臓の適応・不適応に及ぼす影響を検討する。この際、高濃度のメチル水銀は神経毒性をもつことから、毒性を発揮しない微量のメチル水銀を継続的に投与することにする。予想では心臓はストレス適応が十分に行えず、速やかに不適応(形態構造改変)に傾く可能性が考えられることから、心肥大や線維化、微小血管数の減少などを指標に評価を行う。さらに、得られた臓器サンプルまたは血液サンプル中からビオチンマレイミドと高親和性に結合するタンパク質を指標に、メチル水銀投与によって標的タンパク質が不可逆的な親電子修飾を受けやすくなっているかどうか検討する。不可逆的修飾の増加が認められた場合、標的タンパク質を免疫沈降により濃縮し、質量分析法を用いてその親電子修飾様式を特定する。
平成25年8月付で九州大学・准教授から現所属・教授に着任したことで、ラボの移動・立ち上げ、ならびに遺伝子改変動物の搬入措置、測定機器のセットアップに時間を要し、本研究テーマを十分に進める時間を得られなかった。平成25年度にできなかった研究も含めて次年度は実験を行う。そのため、次年度の研究経費のほとんどは物品費として使用する。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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