研究課題
Valeric acid (VA) ならびにisovaleric acid(IVA)がthymic stromal lymphopoietin (TSLP) 産生を誘導する分子機序についてマウス上皮細胞株PAM212細胞を用いて解析した。初年度には、少なくとも既知の短・中鎖脂肪酸受容体(FFAR2/3)は介さないことが示唆されたため、本年度はまずこれら脂肪酸を認識することが知られている嗅覚受容体の関与を検討した。PAM 212細胞における嗅覚受容体の発現をマイクロアレイ法により探索し、陽性だった9種類のolfr遺伝子の発現をreal-time PCRで検討したが、いずれもその発現量は極めて低かった。またヒトにおいてVAによる嗅覚受容体刺激をブロックするambercoreによってはTSLP産生は抑制されなかったことから、嗅覚受容体の関与は小さいものであることが示唆された。VA刺激は顕著なERKのリン酸化の増加やNF-kB p65の核内移行を誘導しなかったことから、受容体刺激以外の可能性についても検討した。短鎖脂肪酸塩であるsodium butyrateはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を阻害する活性があるため、VAならびにIVAのHDAC阻害作用とTSLP産生誘導活性を、HDAC阻害作用を持つTSAならびにsodium butyrateと比較した。TSAは単独でTSLPの産生を誘導した。HDAC阻害活性をヒストンアセチル化の増加で評価した結果、短鎖脂肪酸の中ではbutyrateがもっともHDAC阻害活性強く、VAならびにIVAにも弱いながらHDAC阻害作用が確認された。しかしこのHDAC阻害活性とTSLP産生の強さとは相関しなかった。以上の結果から、VAならびにIVAにはHDAC阻害作用があるものの、未知の受容機構によりTSLP産生を誘導することが示唆された。
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