研究課題/領域番号 |
25670044
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大島 吉輝 東北大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (00111302)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 植物細胞 / 二次代謝物 / 未利用遺伝子 / エピジェネシス |
研究概要 |
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤やDNAメチル化酵素阻害剤などのエピジェネティックな化学修飾酵素の阻害剤を用いる方法は、真核生物に共通する遺伝子発現制御システムを利用するものである。本研究では、HDAC阻害剤やDNAメチル化酵素阻害剤を用いて高等植物培養細胞のクロマチン構造を変化させ、未利用生合成遺伝子を発現させ、創薬において有用な新規天然物を創出する。 本研究の目的を達成するために植物カルスにおける酵素阻害剤を用いた化学的手法の開発に取り組んだ。まず、化学修飾酵素阻害剤のカルスへの使用法およびカルスの培養条件を検討し、二次代謝物の組成変化を指標に最適条件を検討した。すなわち、HDAC阻害剤であるSAHA, SBHAの濃度、カルスの増殖フェーズに合わせた阻害剤の添加時期、SAHA, SBHAと植物ホルモンとの組み合わせなど、阻害剤が効果的に作用する環境を検討した。カルスの形態、増殖状態によっても効果が異なる可能性があるため、本研究に適したカルスの選定作業も行った。二次代謝物をHPLCにて分析したところ、SAHA 500μMを添加すると二次代謝により大きく変化することがわかった。次いで、薬用人参カルスにおけるジンセノシド生合成遺伝子発現レベルを測定した。すなわち、SAHA添加で一定時間培養したカルスのジンセノシド生合成酵素のmRNA量を測定しSAHAの遺伝子転写活性化を調べた。その結果、スクアレン合成酵素、ダンマレンジオールII合成酵素はその発現が減少していた。また、本法の適用範囲を拡大させるために、柴胡、甘草、地黄、麻黄、オウゴンのカルス誘導を行った。植物体の根または球根部組織片を作製し、植物ホルモンを含む寒天培地に接種し培養した。発生したカルスを新鮮培地に移植し、継代培養にてカルスを増殖させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
薬用人参カルスの選定にやや時間がかかったものの、エピジェネシスに関わる酵素に対する阻害剤を用いると植物細胞の二次代謝物の生産が大きく変化することがわかった。この点では計画に沿って進んだ。ただ、二次代謝物の生産がマイナスとなる可能性も考えられるので、平成26年度には細胞培養時に酵素阻害剤に加えて他の因子を使用する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
植物細胞は、HDAC阻害剤のみの添加培養では二次代謝物の生産をプラスの方向に向けるとは限らないことがわかった。一方、エピジェネティックに遺伝子発現を制御することが二次代謝物生産を大きく変化させることが明らかになった。そこで、植物ホルモンとの組み合わせ培養などを試みることにより、生産増強に関わる因子を探索することが必要である。植物細胞における二次代謝物の生産が上がれば、重要な生薬の安定供給にも繋がっていくので社会的な影響はきわめて大きい。 平成26年度は、薬用人参カルスをはじめとする数種の重要生薬について、確実に生合成代謝が強まる条件を探し出し、そこに含まれる成分を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
薬用人参カルスの選定作業にやや手間取ったために、様々な生薬を種々の薬剤を用いてカルス培養することができなかった。したがって、試薬等への経費が予定よりも少なくなった。加えて、研究協力者の研究機関から研究試薬の提供を受けることができたことも物品費を下げる要因となった。 平成26年度は植物ホルモンなどの様々な因子を用いた実験を進める。加えて、平成26年度には、平成25年度に調製した数種の生薬のカルスを研究材料として用いる。これらの実験には平成25年度よりも大幅な経費が必要となる。
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