研究実績の概要 |
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤やDNAメチル化酵素阻害剤などのエピジェネティックな化学修飾酵素の阻害剤を用いる方法は、真核生物に共通する遺伝子発現制御システムを利用するものである。本研究では、HDAC阻害剤やDNAメチル化酵素阻害剤を用いて高等植物培養細胞のクロマチン構造を変化させ、未利用生合成遺伝子を発現させ、創薬において有用な新規天然物を創出する。 昨年度は、植物カルスに、HDAC阻害剤SAHAを添加培養することで、二次代謝物の大きな変化が確認できた。しかしながら、薬用人参カルスにおける代表的二次代謝物であるジンセノシドは、生合成遺伝子発現レベルと代謝物量の低下がみられた。植物は複雑な制御系を有するため、阻害剤の添加だけでは、遺伝子発現の制御が難しいことも示唆された。そこで本年度は、植物細胞に、エピジェネティックな遺伝子発現制御を誘発する、物理的および化学的刺激を与えることで、二次代謝物の変化を調べた。また、HDAC阻害剤との相乗作用の可能性も調べた。刺激として、細胞膜に変化を与え、シグナル伝達系を活性化する外的刺激(pH, 温度, 金属, 膜ATPase阻害, 超音波, 一酸化窒素)と、細胞内の代謝系酵素阻害(ステロール生合成阻害)を行った。比較として、二次代謝活性化に関与するジャスモン酸メチル(MJ)を用いた。その結果、外的刺激では、膜ATP酵素阻害剤カルボジイミドが、HPLCにおいて、MJとほぼ同様な代謝物に増加がみられたが、刺激の強さはMJに及ばなかった。また、ステロール生合成阻害剤ミコナゾールでは、MJで生成される代謝物を含む幅広いピークの出現がみられた。さらに、SAHAやMJと組み合わせることで、代謝物増加の可能性もみられた。本法の適用範囲を拡大させるため、甘草2種をカルス化した。
|