近年,ヒストン修飾やDNAメチル化などのエピジェネティックな転写制御機構が種々の生命現象や疾患等に大きく関わることが知られてきているが,本研究では,ヒストン修飾を司るポリコーム複合体PRC1の中心分子BMI1,およびBMI1の発現を制御することが知られているウィント(Wnt)やヘッジホッグ(Hh)シグナルに作用する化合物を見出すことを目的として,天然物を対象としたスクリーニング研究を行った. 1)まずBMI1プロモーター活性を評価するルシフェラーゼ細胞アッセイシステムの構築を行い,目的の安定発現細胞の構築に成功した.まずBMI1プロモーター領域の下流にルシフェラーゼ配列を含むレポータープラスミドを作成し,次に作成したプラスミドをアッセイ用細胞(ヒト胎児由来腎臓上皮細胞293T)に導入することにより,安定発現細胞の構築を行った.すなわち播種した細胞に構築したプラスミドを導入し,ピューロマイシンによる選択培養を行った後,単一のコロニーが形成された複数のクローンについてルシフェラーゼ活性試験を行い,陽性対照による発光の変化等の実験により最も良好な結果を示した細胞株をスクリーニング用細胞として選別した.選別した細胞では,陽性対照によってルシフェラーゼ発光量が低下するとともにBMI1タンパク質が減少することがウェスタンブロットにより判明した.すなわち,BMI1プロモーター活性とタンパク質発現量に相関性があることが確認した.次に本評価システムを用いて保有する植物エキスコレクションに対するスクリーニングを行い,良好な活性を示す植物種を数種選別した. 2)Wntシグナル阻害作用をもつ天然物のスクリーニングの結果,オオバコ科植物からジテルペンscopadulciol,センダン科植物からリモノイドtrichillin H,を単離し,これらの作用機構に関する知見を得た. 3)ナス科植物からHhシグナル阻害作用をもつ高度に酸化されたステロイド誘導体physarin Hを単離した.
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