二次代謝産物生産性の高い糸状菌を宿主とした有用植物アルカロイド生物合成システムの構築を目指し、種々のベンジルイソキノリン系アルカロイド生合成の共通前駆体であるレチクリンを第一のターゲットとして、研究を進めた。宿主とする麹菌Aspergillus oryzaeにより供給されるチロシンから、最初のベンジルイソキノリン骨格化合物であるノルラウダノソリン生成までに必要な生合成酵素遺伝子であるtyrosinase遺伝子(TYR)、monoamine oxidase遺伝子(MAO)、tyrosine decarboxylase遺伝子(TYDC)、norcoclaurine synthase遺伝子(NCS)について、各発現プラスミドを構築し、これを4重栄養要求性A. oryzae NSAR1株に形質転換した。TYRとTYDCの共発現株ではL-DOPAの生産を確認し、TYRがA. oryzaeにおいて機能的に発現することを確認した。次いで、MAOとNCSの共発現株に基質であるdopamineを誘導培地中に投与したところ、新規生成物が認められたものの、メインはN-acetyl dopamineと同定され、ベンジルイソキノリン骨格をもつ化合物の生成は確認されなかった。そこで、最終年度では研究方針を改め、アルカロイド生産植物に内生する糸状菌に着目し、宿主植物と同一アルカロイドを生産する内生糸状菌を単離することができれば、植物において生合成機構が未解明のアルカロイドについても、内生糸状菌における解析から植物アルカロイド生物合成系の構築に展開することが可能と考えた。アルツハイマー治療薬であるガランタミンなどのヒガンバナアルカロイドを生産するヒガンバナ科植物を用い、植物体の滅菌条件、内生糸状菌の分離条件を種々検討し、糸状菌の分離を行った。現在、単離菌株からの生産化合物の解析を進めている。
|