細胞膜脂質二重層は非対称であり、その構成成分の一つであるホスファチジルセリン(PS)は通常細胞膜内側に存在する。従って、その極性頭部(セリンリン酸部)は細胞内に配向しているが、アポトーシスの際には外側の細胞膜表面に露出することで、ホスファチジルセリンを誘発する。本研究は、“PSを二量化すればセリンリン酸部が常に細胞表面に露出してファゴサイトーシスを誘発する”との作業仮説に基づき、PS二量等価体を設計・合成し、実際にファゴサイトーシス誘発作用を有することを明らかにする。開発するPS二量等価体は、アポトーシス/ファゴサイトーシス機序の解析のための薬理ツールとして有用であり、さらに、新規作用機序に基づく制がん薬創出の端緒となることを目指して研究を実施した。 通常のリン脂質様の飽和脂肪酸を二量化したPS二量等価体とともに、疎水性部の折れ曲がりが生じ、二つのセリンリン酸部がどちらも細胞内に配向するこの懸念から、折れ曲がりを防ぐ目的で、疎水鎖中央部に直線性の剛直構造としてベンゼン環が4つ連結したクアトロフェニル構造を選択し、PS二量等価体を設計した。ベンゼン環が連結することによる平面性によって強力な分子間スタッキング相互作用が生じるため溶解性が劣悪であることが合成過程で判明したので、平面性を打破するべくベンゼン環上にメチル基を有するクアトロフェニル構造を導入したPS二量等価体を新たに設計した。今年度は2種のPS二量等価体の合成を完了し、ファゴサイトーシス誘発作用を検討した。その結果、PSに比較して2倍近く強力なファゴサイトーシス誘発作用を有する事が判明し、作業仮説の正当性が証明された。
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