研究課題/領域番号 |
25670060
|
研究種目 |
挑戦的萌芽研究
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
犬井 洋 北里大学, 理学部, 講師 (20348600)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 光反応 / ドキシフルリジン / 抗癌剤 / プロドラッグ / 光分解性保護基 |
研究概要 |
5-フルオロウラシル(5-FU)は代表的な代謝拮抗剤であり、抗癌剤として利用されている。また、そのプロドラッグであるドキシフルリジン(DF)は、癌細胞内で活性な酵素により5-FUへと変換され、抗癌剤としての効果を発揮する。しかし、その癌細胞選択性は完全なものではなく、少なからず正常細胞への攻撃に伴う副作用を生じる。 本研究では、DFを光化学的に発生できる新規な分子を設計・合成し、その光反応の効率を溶液中および細胞中で詳細に調べることで、抗癌剤の投与を時間的・空間的に制御できる分子を構築することを目的としている。 これまでに、まずニトロキノリル骨格を有する新しい光DF放出剤(1)の合成ルートおよび反応条件を検討し、20%程度のトータル収率での合成を達成した。また、比較物質として代表的な光分解性保護基であるニトロベンジル基(2)およびそこにメトキシ基やクロロ基を導入した放出剤も合成した。 合成した各種DF放出剤について、溶液中での光反応を高速液体クロマトグラフィーおよび積算光量計を用いて追跡し、光を吸収する能力Aおよび吸収した光量に対するDFの放出量Bを求めることで、DFを放出する能力(A×B)を算出した。その結果、新規DF放出剤1は2に比べて16倍程度の能力を有することが分った。また、反応機構と骨格の立体構造の違いから考察したところ、放出能力はメチレン水素とDFのカルボニル酸素間のCH/O相互作用によって影響されることが示された。なお、この光反応では購入した液体クロマトグラフィー用データ取込解析装置がその威力を発揮し、再現性と信頼性の高い結果を得ることが可能となった。 また、ニトロキノリル骨格に細胞内導入率と細胞内滞留性の向上が期待されるアセトキシメチル基を連結した分子の合成も行った。リポソーム化についてはレシチンを購入し、超音波処理法による封入条件の検討を現在行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ、リポソーム化は達成できていないものの、新規DF放出剤の合成が達成され、更にそのDF放出能力が、よく用いられる光分解性保護を有する分子と比較して極めて高い値を有することが分った。また、クリーンベンチ等の設備を整えると共に、申請者および修士課程学生が細胞培養に関する講習を受け、DF放出剤の細胞内導入実験を行うための準備が出来ている。
|
今後の研究の推進方策 |
薬物の取込に関する研究において実績のあるヒト臍帯静脈内皮細胞等を用いて、細胞内導入実験を行う。方法としては、培養細胞にDF放出剤の溶液(ジメチルスルホキシド-水混合溶液)を添加し、一定時間後にwash outと界面活性剤による細胞破壊を行い、その混合溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析をすることで細胞内導入率と滞留性を評価する。導入を確認した後、光照射下および未照射下でのDF放出率や細胞毒性をTrypan Blue染色-計数法で調べる。細胞死が観測された場合、それが光化学的に放出された抗癌剤(DF or 5-FU)によるものか、あるいは脱離したキノリル基の断片(副生成物)によるものかを明確にするために、生体に害のないウラシルを放出する分子を合成し、同様の細胞内実験を行うことで検証する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
光反応および光分解性保護基に関する情報の収集を目的として、「反応中間体および異常分子の国際会議(平成26年度4月1日~)」に出席するための旅費とするために次年度に繰り越しさせていただいた。また、平成26年度以降に本格的に行う細胞内導入実験のための細胞の購入費用に一部あてるつもりであったが、細胞の選択を十分検討するために、次年度に繰り越しさせていただいた。 上記の(理由)に記述した通り、「反応中間体および異常分子の国際会議」への旅費および細胞内導入実験に用いる細胞(ヒト臍帯静脈内皮細胞など)の購入に使用する。
|