「GAPDHによるtRNALys3取込み阻害機構」を解明するために、yeast two-hybrid(Y2H)法を行ったところ、GAPDHがウイルス前駆体タンパク質と結合するメカニズムの一端を明らかにすることができた。この知見に基づきGAPDH、ウイルス前駆体タンパク質の立体構造に基づいたドッキングシミュレーションを行った結果、この相互作用に必要であると思われる残基に変異を導入したコンストラクトを作製し、再度Y2H法を行ったところ、相互作用の消失が確認できた。さらに、ウイルス前駆体タンパク質との相互作用がY2H法において消失した変異体を強制発現させた細胞から得られるウイルスを評価したところ、WTを強制発現させた細胞から得られるウイルスで低下していたtRNALys3取込み及び感染価が回復した。また、細胞内においてGAPDHは単量体ではなく、四量体として存在することが知られているが、今回作製した変異体はWTと同様に、内在性GAPDHと相互作用していることが共免疫沈降法確認できた。 以上のことより、GAPDHはウイルス産生細胞において四量体を形成し、ウイルス前駆体タンパク質と相互作用することで、tRNALys3のウイルス粒子内への取込み阻害機能を発揮していることが強く示唆された。これまでに、宿主性タンパク質がtRNALys3のウイルス粒子内への取込みを阻害する報告はGAPDH以外に無く、本研究によってHIV逆転写反応必須因子であるプライマーtRNALys3を逆転写反応の場に持込ませないという新しいコンセプトの治療戦略を推し進めるための重要な知見を得た。今後は、GAPDHと同様多量体を形成することが知られるウイルス前駆体タンパク質の多量体にも着目したGAPDHのtRNALys3取込み阻害機構を追究することなどに軸を置き研究を展開していく必要があると考えている。
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