最終年度は、高病原性トリインフルエンザウイルス(H5N1)の新規感染経路の分子機構について検討した。 ゲノム編集技術を利用して、シアル酸付加の律速酵素であるcytidine monophosphate N-acetylneuraminic acid synthetase (CMAS)を欠失したヒト細胞株の作製に成功した。このシアル酸欠損細胞を用いて、H5N1の感染能を免疫染色にて評価したところ、高病原性のH5N1ウイルスはシアル酸欠損細胞にも感染できることを見出した。一方、低病原性のH5N1ウイルスはシアル酸欠損細胞に感染できなかった。このことは、高病原性のH5N1ウイルスがシアル酸非依存的に感染可能なことを示しており、我々の仮説を支持している。 前年度、細胞内移行能と遺伝子発現の相関に基づいて、候補分子を抽出した。また、ビオチン標識ペプチドとアビジン固相化磁性ビーズを用いたプルダウンアッセイも行い、さらに候補分子を選別した。H5N1のシアル酸非依存的感染経路に関与する分子を明らかにするため、抽出された候補分子の機能的検証を行った。過剰発現細胞を作製し、細胞内移行能を比較したけれども、大きな影響は見られなかった。候補分子を探索する新たな方法として、ジーントラップ法によるgenetic screeningを行い、細胞内侵入能が抑制された細胞群の濃縮に成功した。現在、次世代シークエンス解析などを用いて、挿入遺伝子の位置の特定を進める予定である。 本研究成果は、高病原性H5N1の感染性の理解を深め、H5N1の感染を阻害する薬剤の開発に貢献することが期待される。
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