研究実績の概要 |
認知症発症の要因の一つに、虚血・炎症性疾患、糖尿病などの慢性疾患や神経変性疾患で引き起こされる脳血管障害が知られている。脳血管障害を伴う病態における血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)の機能的低下のメカニズムを分子的に解明することは、BBBの賦活化又は正常化による認知症予防法の開発に不可欠である。そこで本研究は、標的絶対定量プロテオミクス(QTAP)及び輸送機能解析を基盤として、虚血・炎症性病態や糖尿病におけるBBBの機能変化の分子機構を解明することを目的とした。虚血環境におけるBBB輸送機能変化を解析するため、ヒト脳血管内皮細胞株(hCMEC/D3細胞)をトランスウエル上で培養し、虚血病態の脳内環境モデルとしてbasal側のみをカルシウムゼロの緩衝液で蛍光プローブの取り込み量を計測した。同環境では、basal側から細胞内方向の取り込みが増大し、basal側のチャネルが開口活性化したことが示された。チャネルサブタイプの輸送機能解析系を用いて、内因性基質及び薬物の基質認識性を解析した。虚血病態では脳毛細血管内皮細胞の脳側細胞膜で、選択的にチャネルが開口活性化し、BBB輸送機能変化を担う分子機構であることが示唆された。さらに、in vivo LPS投与炎症モデル及び高血糖モデルマウスから脳血管を単離し、輸送タンパク質の発現量の変動プロファイルを構築した。以上の結果から、脳血管障害を伴う病態において、BBBの輸送機能が活性化されたり、輸送タンパク質の発現量が変動したりする分子は、BBB賦活化又は正常化の分子標的となる可能性が示された。本研究では、BBB輸送機能の観点から、認知症の予防や進行を遅らせるための科学的基盤を構築する上で重要な知見を得ることができた。
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