研究概要 |
本研究では、従来より用いられている、リンパ球幼弱化試験の方法を改良し、現時点で判定が困難とされる薬剤性肝障害の被疑薬についても漏れなく陽性判定することを目指している。ポイントとして、従来のリンパ球幼弱化試験は肝細胞が系に含まれておらず、薬物の代謝物が抗原性を有し、かつ代謝物が肝臓でしか生じない場合は偽陰性となる可能性がある。そこで、現行のリンパ球幼弱化試験に代謝活性を保持した肝細胞を共存させて共培養することでこれを克服することを目指す。本プロジェクトでは動物モデルを用いてこれを実現するための検証実験を行う。必要なツールとして、1)薬物代謝酵素ならびに抗原提示に関わるMHC(ヒトではHLA)分子型を十分量発現する肝細胞培養系、2)これに特異的に反応して活性化されるT細胞クローンを含む末梢血由来リンパ球、が挙げられる。ここで、少なくとも動物では肝障害と関連するいずれのMHC遺伝子型は特定されていないため、ヒトで報告されているMHC多型のうち、最も薬剤性肝障害リスクとの関連性が高いとされるHLA-B*5701多型に着目し、これをマウス肝臓に高発現させた動物モデルを作出し、これから肝細胞を単離培養する系を確立することを目指す(この多型は抗生物質Flucloxacillinの薬剤性肝障害リスクを80倍上昇させる)。1年目はその準備としてHLA-B*5701を全身に発現するトランスジェニックマウス作出のためのベクターを構築するところまでを行った。また、肝細胞は培養に伴い代謝酵素発現が低下すること、ヒト特異的な代謝物がHLA-B*5701により抗原提示される可能性も考慮し、ヒトCYPのうち肝臓で量的に主要、かつFlucloxacillinの代謝に関与することが知られるCYP3A4を筆頭に2E1, 2C9, 2C19, 2D6を発現させるためのアデノウィルスベクターを構築した。
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