研究実績の概要 |
薬物輸送研究には薬物トランスポータを発現させた培養細胞などの発現系が汎用されるが、ヒト個体における発現量とは異なり、また多様なトランスポータを同時に発現させた生理的条件に近い系の確立は困難である。従って、ヒト腎臓における薬物の尿細管分泌の程度や各トランスポータの寄与率を、in vitro評価系から予測する方法が確立されているとは言い難い。医薬品開発において、前臨床試験段階で新規化合物の腎排泄(尿細管分泌)やトランスポータの寄与率を予測することは重要であるが現状では困難であり、その予測を可能にする新しいin vitro試験系の開発が望まれている。本研究では、ヒト腎由来の培養上皮細胞を種々の条件下で培養し、薬物の尿細管分泌に関わる薬物トランスポーターの発現がヒト個体と同様のプロファイルを示すようなin vitro試験系を構築することを目的とする。 本年度はヒト正常腎近位尿細管上皮細胞株HK-2細胞を用い、薬物の尿細管分泌に関わる薬物トランスポーターの発現量とDNAメチル化の関連性について検討を加えた。HK-2細胞においては有機カチオントランスポーターOCT2やMATE1, MATE2-Kの発現はほとんど認められないが、DNAメチル化阻害剤で処理したところOCT2 mRNAの発現上昇が認められ、HK-2細胞においてDNAメチル化によりOCT2の発現が抑制されていることが示唆された。現在、DNAメチル化の程度と薬物トランスポーターの発現量の関連について検討している。培養条件を変化させて生理的レベルのトランスポーターを発現させる手法を開発できれば、ヒトにおける薬物動態を予測する上で重要なツールとして利用できるものと考えている。
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