研究概要 |
今年度は、ヒト・肝臓CYP1A1, CYP1A2, CYP2A6, CYP2B6, CYP2D6, CYP2C8, CYP2C9, CYP2C19, CYP3A4, CYP3A5, CYP4A11の11種類のP450、50 pmolと、100 uMのCortisol, 17alphaOH-Progesterone (170H-Prog), Estradiol,Androstenedione (AD), 11-Deoxycortisol(DOC)を反応させ、ODSカラムを用いたHPLCにより、生成物の分析を行った。結果、HPLCのクロマト上で有意な生成物が得られたのは、ほぼCYP3A4のみであり、Cortisolからは6beta-Cortisolと考えられるピークが、17OH-Prog, DOCからは、それぞれADと同じ保持時間のピークと未同定の大きなピークが得られた。そこで、CYP3A4のAD合成に対するKm, Vmaxを求めところ、17OH-Progに対しては、1.5 mM, 57 nmol/min/nmolP450、11-DOCに対しては、35 uM, 1.5 nmol/min/nmolP450、という結果が得られた。これらの活性は、ステロイドの側鎖切断反応(Lyase activity)であり、CYPとしては、非常にまれな活性である。またこの側鎖切断反応は、生理的にも重要であり、特に11-DOCからのADの生成は、CYP11B1の欠損症時のステロイド動態と関連しており、臨床データとの関連が示唆され、非常に興味あるものである。一方、11-DOCに対しては活性が見られたものの、Cortisolに対してはADの生成が感度以下と活性が見られなかった。これは11位の水酸基がCYP3A4の基質認識に大きく影響を与えたものと考えられ、CYP3A4の基質認識機構に対しても重要な知見となった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、今年度の11種類に加え、胎児肝特異的CYPであるCYP3A7についても検討を行いたい。このCYP3A7は、胎児肝のみならず、新生児肝においても発現していることが知られており、小児薬理領域で重要なCYPとなっているからである。そこで、大腸菌の発現系を用い、CYP3A7の発現試みることにする。発現用ベクターpCWを用い、CYP3A7とP450還元酵素の共発現系を構築し、形質転換後得られたCYP3A7発現大腸菌より膜を調製し酵素試料として活性測定に利用の予定である。また、昨年度のCYP3A4と17OH-Prog, DOCとの反応における、未知生成物はそれぞれ6位の水酸化物であると思われるが、これらの生成物の同定を試み、速度論パラメーターの確定を行い発表を行う予定である。また、上記のCYP3A7を含めた計12種のCYPに対して、来年度はミネラルコルチコイド系の11-Deoxycorticosterone, Corticosterone, Ardosterone等について、検討を行う。またΔ5系の17-OH-Pregenenolone, Dehydroepiandrosteroneについても検討の予定である。これらの結果と、他の論文や我々の過去のデータと合わせることにより、ステロイド合成系における各生成物に対する主要ヒト・肝臓CYPの代謝特性が明らかとなる。また、一方で、尿中代謝物としては、5位が還元された生成物が多いことから、先に5位が還元された後、CYPにより酸化代謝されている可能性も高い。そこで各生成物の5位の還元体に対する反応も検討を行いたい。このことに関して、状況によっては、新たにステロイド還元酵素の発現系を構築し、反応系へ添加することも検討したい。
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