本研究課題は、新たに同定した細胞膜を拡散するウイルスタンパク質を用い、隣接する細胞の「膜」を介した機能性タンパク質の組織深部への輸送システムの開発を行うことを目的とし検討を行った。 これまでの検討において、キャリアー分子として用いるウイルスタンパク質が相互作用する細胞膜タンパク質を同定し、本膜タンパク質との結合性が、ウイルスタンパク質の細胞膜移動に必須であることを明らかとした。さらに、マウスを用いた検討において、本ウイルスの細胞膜移動がin vivoにおいても機能することを明らかとした。 そこで、最終年度においては、組織深部への移行能を確認すると共に、特定の標的分子への親和性ペプチドを融合し、ターゲティング能を付与した分子の創製をおこなった。その結果、担癌マウスを用いた検討において、マウス癌組織中でのウイルスタンパク質の拡散は、組織表面だけでなく、組織深部方向への拡散も確認できたことから目的とする移行能を持っていることが明らかとなった。しかしながら、ウイルスタンパク質の拡散は癌組織にとどまらず、隣接する正常組織へも見られたことから、特定分子へのターゲティング能の付与が必要であることも示された。一方、数種類の分子親和性を持つペプチドとの融合タンパク質を作製したが、細胞膜移動能は保持されても、特定の分子を標的とした特異的集積性は観察されなかった。このことより、ウイルスタンパク質が元来保持する細胞膜タンパク質との親和性を低下させた改変体の作製を試み、親和性を10分の1まで低下させたアラニン置換体の作製に成功した。本成果を元に、細胞膜を移動相とし、任意の標的分子へのターゲティングが可能な新規デリバリー技術の開発につなげたいと考えている。
|