家族性パーキンソン病(PD)の原因遺伝子PARK7の遺伝子産物であるDJ-1は、酸化ストレス下で自身が酸化され、酸化DJ-1を生じる。申請者は、15例での検討から治療を開始する前のごく初期のPD患者の赤血球中に、酸化DJ-1が顕著に蓄積することを発見した。この結果から、赤血球中の酸化DJ-1レベルが、PDの早期診断を実現するバイオマーカーになる可能性が考えられた。本研究では、酸化DJ-1特異的な抗体を用い、ELISAやwestern blot法、免疫染色法などの免疫化学的手法を確立し、DJ-1の酸化を指標としたPDの早期診断・早期治療法の研究基盤確立に挑戦した。確立した免疫染色法を用い、進行度合いの異なるPD患者脳切片の免疫染色を行った。その結果、ヒト中脳黒質のドパミン神経細胞が酸化DJ-1を発現すること、さらにPD発症する前から酸化DJ-1が検出され、PD発症時に最大を示すことを明らかにした。一方、PD患者の赤血球中酸化DJ-1レベルについて、150例について調べた結果、未治療PD患者において、統計学的に有意な酸化DJ-1の高値を認めた。赤血球中の酸化DJ-1レベルの増加は、PDモデルカニクイザルでも認められた。初期のPD患者で認められた酸化DJ-1の蛋白質化学的性質を調べ、低分子と高分子画分に酸化DJ-1が存在し、後者ではプロテアソームと相互作用することを明らかにした。DJ-1は、プロテアソーム阻害活性を有することから、初期のPD患者血液中における異常タンパク質の蓄積に寄与している可能性がある。以上の研究から、PD患者の脳内および血液中において早期に酸化DJ-1が生成していることが明らかとなった。我々の研究から細胞内抗酸化物質グルタチオンがDJ-1の酸化を効率よく抑制することが明らかとなっており、PDの早期にグルタチオンの積極的な投与は有効であると考えられる。以上、本研究から酸化DJ-1を指標としたPDの早期診断・早期治療法の研究基盤が確立できた。
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