研究課題
挑戦的萌芽研究
申請者は、これまで腸管上皮研究を展開する中で、正常な上皮幹細胞を単離し体外で培養する技術を確立した。さらに、ここに得られる培養細胞を移植することによって傷害を受けた大腸上皮組織の修復が可能であることを明らかにした(Nat Med 2012)。本研究をさらに発展させる過程において、正常小腸より単離し培養した上皮細胞を成体マウス大腸へ異所性に移植すると、ドナー由来小腸上皮がレシピエント大腸組織に生着しうることを見いだした。興味深いことに、移植細胞は小腸上皮としての性質を保持したまま大腸組織内で自律的増殖を繰り返すとの知見を得た。本申請研究ではこの成果に基づいて、消化管前後軸に沿う小腸/大腸上皮接合部における境界維持機構を明らかにし、さらには領域の異なる上皮細胞間の分化転換(トランスディフェレンシエーション)機構の解明を目指し開始した。その結果、平成25年度においても大きな成果が得られた。すなわち、デンマークの研究グループと共同し、培養した胎生期小腸上皮細胞を、われわれの技術を利用し成体マウスの大腸組織に移植することに成功した(Cell Stem Cell 2013)。この移植片の解析の結果、胎生期の小腸上皮細胞は、移植先である大腸組織環境に適応し、一部大腸型上皮に特異的分子発現が見られるなど、成体小腸とは異なる可塑性を持つことを見いだした。成体由来小腸細胞の大腸への移植実験成果と併せ、これら研究成果は現在学術論文として投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
デンマークのJensen labとの共同研究で、培養した胎生期小腸上皮細胞を成体大腸組織に移植することに成功した。しかも、この胎生期小腸由来細胞移植片の解析により、これら細胞が、生着下大腸組織環境に適応して大腸上皮形質を一部獲得することを見いだした(Cell Stem Cell 2013)。一方、成体由来小腸細胞の大腸への移植実験においても、興味深いデータを得た。移植後レシピエント大腸組織の解析により、移植片の性状解析が大きく進み、組織学的解析・透過電子顕微鏡観察による形態学的解析、およびin situ hybridizationによる発現因子解析のほか、レーザーマイクロダイセクション法で回収した移植片上皮の発現遺伝子解析を進めた結果を、現在学術論文として投稿中である。
本年度においては、これまでの研究成果にもとづいて、小腸/大腸境界維持に重要な機能を有する候補因子群を抽出し、これら因子をノックダウンした小腸上皮細胞を移植する実験システムをつくること、さらには遺伝子ノックダウンが小腸/大腸境界形成に及ぼす影響を形態学的解析や小腸・大腸分化マーカー分子の発現解析をおこない解析する予定である。
試薬等が計画当初より廉価で購入可能であったため。検討する数・種類を拡大して解析を行うため、試薬を増量して購入する予定である。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 3件)
Cell Stem Cell
巻: 13(6) ページ: 734-744
10.1016/j.stem.2013.09.015