研究課題
我々が見いだした冬眠シリアンハムスターにおける小腸粘膜上皮の細胞更新の著しい遅滞に関して、以下のような解析を加えた。Ⅰ. シリアンハムスターの小腸から陰窩を分離して培養することによりオルガノイドを誘導し、チミジンアナログであるethynyldeoxyuridine(EdU)のパルス実験により上皮細胞増殖と移動を解析したところ、覚醒個体と冬眠個体との間に差はみられなかったので、冬眠時の小腸粘膜上皮の細胞更新遅滞は幹細胞レベルで生じているものではないと推察した。また、覚醒個体の小腸陰窩から誘導したオルガノイドに覚醒個体および冬眠個体の血清を添加したところ、細胞増殖に変化はみられなかったが、覚醒個体および冬眠個体の小腸粘膜ホモジネート上清を添加した場合は、いずれもオルガノイドの形成が阻害された。したがって、オルガノイドを用いたアッセイ系により上皮細胞更新を制御する因子を見いだすには至っていない。Ⅱ. 小腸粘膜上皮のタイトジャンクションに関連するタンパクであるZO-1とclaudin-1の遺伝子発現レベルは冬眠により影響を受けなかったが、上皮細胞膜におけるclaudin-1タンパクの局在は覚醒個体に比して冬眠個体で不明瞭であった。このことから、冬眠個体においては小腸粘膜上皮の細胞更新遅滞にともなってバリア機能が低下すると予測し、FITC-デキストランを経口投与した後の血清中FITC濃度を測定することにより、腸粘膜透過性を比較したところ、冬眠個体において透過性が有意に高値を示した。つまり、予想通り小腸粘膜バリア機能は冬眠時に低下することが示唆された。しかしながら、腸間膜リンパ節への腸内細菌の移行は認められなかった。Ⅲ. トランスクリプトーム解析による遺伝子発現の網羅的解析については、冬眠個体の小腸から分離した試料の品質が解析に耐えるものではなく、実施に至らなかった。
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Development, Growth & Differentiation
巻: 57 ページ: 68-73
10.1111/dgd.12191
http://www.agr.hokudai.ac.jp/fbc/sonoyama/index.htm