研究課題
挑戦的萌芽研究
恒明条件下で光強度が増すと,概日行動リズム周期は昼行性動物では短くなり,夜行性動物では長くなるとのアショフの法則の機構は未解明である。セクレトグラニンII遺伝子(Scg2)ノックアウト(KO)マウスは,アショフの法則がより顕在化する形質を示す。当年度は,同マウスにおいて,概日行動リズムの光刺激による変動が過敏化しているか否かを検証した。(1)リズム周期伸長の光強度依存性の解析: これまでに,350ルクスの恒明条件下で,Scg2 KOマウスは26.1時間,対照マウスは25.3時間の概日行動リズム周期を示した。今回, KOマウスを恒暗下(0.5ルクス以下)にて3週間,続いて2(赤色光),2(LED,以下同じ),30,1000ルクスの恒明下で各3週間飼育し,リズム周期の変化を調べた。その結果,30ルクスにおいて,KO群はリズム周期伸長の亢進を示した。従って,Scg2 KOマウスにおける活動リズム周期の伸長は特定の照度において亢進するものと考えられた。(2)暗期光刺激によるマスキング効果の解析: 夜行性動物では暗期中途の光照射により運動量の減少が見られ,リズムのマスキングの典型例とされる。12:12時間明暗サイクルの暗期4時間(消灯後3-7時)に2ルクス(赤色光)の光照射をScg2 KOマウスに行い,以後少なくとも10日毎の間隔をおいた各日に2(LED,以下同じ),5,10,100,1000ルクスの光照射を行った。当日(0日)の光照射中の運動量を,各前日(-1日)あるいは翌日(+1日)の同時間帯の運動量と比較した。その結果,100ルクス照射においてKO,対照両群で運動量が減少したことに加え,以下の予備的知見を得た。1)2ルクス赤色光では-1日に比べ光照射中の運動量がむしろ増加したが,KO群ではその亢進が見られた。2)10,100ルクスでは-1日に比べ+1日の運動量がKO群特異的に増加した。以上より,Scg2 KOマウスにおける光刺激応答性の亢進が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
我々が最近世界に先駆けて作成したScg2 KOマウスは,恒明状態において概日行動リズム周期が対照マウスに比べ顕著に伸長するなど,アショフの法則がより顕在化する形質を示し,同法則の機構解明に向けた好適の実験系となる。本研究では,Scg2 KOマウスにおいて概日行動リズムの光刺激による変動が過敏化しているとの仮説の検証を目指し,概日行動リズム周期伸長の光強度依存性の解析を行い,対照群に比べ有意な伸長亢進を示す照度域を明らかにした。さらに,暗期中途での光照射によるマスキングの検討においても,Scg2 KOマウスが対照群に比べ光刺激応答性の亢進を示すとの予備的知見を得た。以上から,当該研究はおおむね順調に進展していると判断した。
Scg2 KOマウスにおける暗期中途での光照射によるマスキング効果の亢進等の予備的知見の確認を行うとともに,視交叉上核の培養切片における時計遺伝子の概日発現リズム周期を指標にした解析を行う。これまでに,時計遺伝子Period 2(Per2)にルシフェラーゼ遺伝子Lucを融合させたmPer2LucノックインマウスとScg2 KOマウスの交配を進め,近々mPer2LucノックインScg2 KOホモ接合型マウスを得る見通しである。同マウスの視交叉上核培養切片が示す概日発光リズムを指標に以下の解析を行う。(1)Scg2 KOマウス切片における概日リズムの遅延を補正するScg2由来ペプチドの同定: mPer2Luc発現Scg2 KOマウスを350ルクスの恒明条件下で2週間飼育し,同マウスが対照群に比べ概日行動リズムの伸長亢進を示すことを確認した後,視交叉上核切片を調製し組織培養を行う。7日間mPer2Lucに由来する発光をモニターし, KOマウス切片において対照群に比べより長い概日発光リズム周期が見られることを確認する。続いて,Scg2 に由来するセクレトグラニン,BM66,マンセリン等の神経ペプチドを,培養開始当初あるいは開始後8日目から培地に添加し,Scg2 KOマウス切片において見られた概日発光リズムの遅延を補正しうるか否かを検討する。(2)培養切片においてアショフの法則を再現する実験系の確立: 視交叉上核を支配する網膜視床下部路の終末からは,光刺激に応答して主にグルタミン酸とpituitary adenylate cyclase-activating peptide(PACAP)が放出される。これらの神経伝達物質を野生型マウスの視交叉上核培養切片に作用されることによりアショフの法則を再現しうるか否かを検討する。培養開始当初あるいは開始後8日目から種々の濃度のグルタミン酸とPACAPを単独あるいは組み合わせて培地に添加し,概日発光リズム周期の伸長が見られるか否かを検討する。
物品購入時期を変更し,次年度購入としたため。物品費として使用予定。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Journal of Neurochemistry
巻: 128 ページ: 233-245
10.1111/jnc.12467
PLoS ONE
巻: 8 ページ: e79236
10.1371/journal.pone.0079236