研究課題
恒明条件下で光強度が増すと,概日行動リズム周期は昼行性動物では短くなり,夜行性動物では長くなるとのアショフの法則については,その機構が未解明である。この法則がより顕在化するセクレトグラニンII遺伝子(Scg2)ノックアウト(KO)マウスは,同法則の機構解明に適したモデルと言える。当年度は,視交叉上核培養切片のリズム解析に用いるmPer2LucノックインScg2 KOホモ接合型二重変異マウスを得るべく,親系統となるmPer2LucノックインScg2 KOヘテロ接合型マウスを交配にて作出した。一方, Scg2 KOマウスを用いて前年度に得た,暗期光刺激によるマスキング効果等に関する予備的知見の検証を行った。12:12時間明暗サイクルの暗期4時間(消灯後3-7時)に,2ルクス(赤色光)もしくは,2(LED,以下同じ),5,10,100,1000ルクスの光照射を行なった。光照射中(0日),あるいは翌日(+1日)の同時間帯の運動量を,照射前日(-1日)の同時間帯の運動量と比較し,以下の知見を得た。1)光照射による運動量の減少は,対照群では5ルクス以上の照度で,KO群では100ルクス以上で有意であった。2)2ルクス赤色光では光照射中(0日)の運動量がむしろ増加したが,KO群ではその有意な亢進が見られた。3)LED光照射では+1日の運動量が増加したが,KO群におけるその亢進が10ルクスにおいて有意であり,100ルクスにおいては有意傾向(p = 0.11)が認められた。従って,Scg2 KOマウスではマスキング効果が抑制されている(対照マウスに比べ相対的に運動量が多い)一方で,光刺激応答性の運動量の増加は亢進していた。特に,Scg2 KOにおいて+1日に運動量増加の亢進をもたらす照度は,恒明条件下において概日行動リズム周期伸長の亢進を示す照度域に近く,Scg2 KOマウスにおけるこの照度域での光感受性の亢進がリズム周期伸長の原因であるかに関心が持たれた。
2: おおむね順調に進展している
アショフの法則がより顕在化しているScg2 KOマウスにおいて,概日行動リズムの光刺激による変動が過敏化しているとの仮説の検証を進めている。暗期中途での光照射によるマスキングの検討では, Scg2 KOマウスにおいてマスキング効果が有意に減弱している(対照マウスに比べ相対的に運動量が多い)等,新たな知見が得られた。またマウスの遺伝的背景の差異による影響を除くため, C57BL/6系統に均一化した個体でのデータ採取を現在進めているが,同様な傾向が認められている。さらに,視交叉上核由来の培養切片を用いて,概日リズム遅延をScg2由来ペプチドが補償しうるか否かを検証する実験系を確立するために, mPer2LucノックインScg2 KOホモ接合型二重変異マウスの作製を進めた。Per2遺伝子とScg2遺伝子は同じ第1染色体上に存在しており,二重変異を得るには相同組換えが起きる必要がある。両遺伝子座の間隔はおよそ520万塩基対で,その組換え頻度は5%程度であるため,二重変異体の作出は難航したが,現在,mPer2LucノックインScg2 KOへテロ接合型マウスを数匹得ている。同マウス同士の交配も進めており,その仔マウスも得られている。mPer2LucノックインScg2 KOホモ接合型マウスが得られ次第,同マウスの視交叉上核培養切片を用いた解析を行う予定である。以上から,当該研究はおおむね順調に進展していると判断した。
Scg2 KOマウスにおける概日行動リズムの光刺激による変動について,遺伝的背景をC57BL/6系統に均一化した個体でさらに検証を進める。また,mPer2Lucノックインマウス由来の視交叉上核の培養切片を用いて,時計遺伝子の概日発現リズム周期を指標にした以下の解析を行う。(1)Scg2 KOマウス切片における概日リズムの遅延を補償するScg2由来ペプチドの同定: mPer2Luc発現Scg2 KOマウスを350ルクスの恒明条件下で2週間飼育し,同マウスが対照群に比べ概日行動リズムの伸長亢進を示すことを確認した後,視交叉上核切片を調製し組織培養を行う。7日間mPer2Lucに由来する発光をモニターし,KOマウス切片において対照群に比べより長い概日発光リズム周期が見られることを確認する。続いて,Scg2 に由来するセクレトグラニン,BM66,マンセリン等の神経ペプチド(委託合成済み)を,培養開始当初あるいは開始後8日目から培地に添加し,Scg2 KOマウス切片において見られた概日発光リズムの遅延を補正しうるか否かを検討する。(2)培養切片においてアショフの法則を再現する実験系の確立: 視交叉上核を支配する網膜視床下部路の終末からは,光刺激に応答して主にグルタミン酸とpituitary adenylate cyclase-activating peptide(PACAP)が放出される。これらの神経伝達物質を野生型マウスの視交叉上核培養切片に作用させることによりアショフの法則を再現しうるか否かを検討する。培養開始当初あるいは開始後8日目から種々の濃度のグルタミン酸とPACAPを単独あるいは組み合わせて培地に添加し,概日発光リズム周期の伸長が見られるか否かを検討する。さらに,この伸長を,上記(1)においてScg2 KO形質を補償したScg2由来ペプチドにより,補正しうるか否かを検討する。
Per2遺伝子とScg2遺伝子が同じ第1染色体上に存在するため,相同組換えによるmPer2LucノックインScg2 KO二重変異マウスの作出に時間を要し,同マウスを用いた実験を次年度に行うこととしたため。
mPer2LucノックインScg2 KO二重変異マウス由来の視交叉上核培養切片を用いた実験に使用する試薬等の物品費に充当する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
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