研究課題
恒明条件下で光強度が増すと,概日行動リズムの周期が昼行性動物では短くなり,夜行性動物では長くなるとのアショフの法則は動物界に広く妥当するが,その機構は未解明である。申請者らが世界に先駆けて作成したセクレトグラニンII遺伝子(Scg2)ノックアウト(KO)マウスは,恒明状態において概日行動リズム周期が対照マウスに比べ顕著に伸長し,アショフの法則の機構解明に適したモデルと言える。当年度は,mPer2LucノックインScg2 KOホモ接合型二重変異マウスを作出し,その視交叉上核の培養切片を用いて,概日リズム伸長の成因を解析する実験系を整備した。Per2遺伝子とScg2遺伝子は同じ第1染色体上に存在し,交配により二重変異体を得るためには相同組換えが必要であるが,両遺伝子座の間隔は520万塩基対で相同組換え頻度は約5%であるため,二重変異体の作出は難航したが,当年度これに成功した。得られたmPer2LucノックインScg2 KOホモ接合型マウスおよび対照マウスを12:12時間明暗サイクル条件下にて飼育後,視交叉上核切片を調製し組織培養を行い数週間にわたりmPer2Lucに由来する発光をモニターしたところ,Scg2 KOマウス切片は対照マウス切片に比べ概日発光リズム周期が伸長する傾向を示すとの予備的な知見を得た。また,網膜の光刺激に応答して網膜視床下部路の終末から分泌され視交叉上核に作用するpituitary adenylate cyclase-activating peptide(PACAP)をScg2 KOマウスおよび対照マウスの視交叉上核切片培養液に添加すると,発光リズム位相の変位が認められた。以上,Scg2 KOマウス個体レベルにおける恒明条件下での概日行動リズム周期伸長の成因を解析しうる視交叉上核切片培養系を樹立した。
2: おおむね順調に進展している
同じ第1染色体上に至近間隔(520万塩基対)で位置し,相同組換え頻度が約5%と想定される Per2遺伝子とScg2遺伝子については,交配により二重変異体を得ることは難航すると予想されたが,当年度これに成功した。さらに,予備的知見ながら,得られたmPer2LucノックインScg2 KOホモ接合型マウスの視交叉上核培養切片を用いて,mPer2Lucに由来する概日発光リズム周期が対照マウスに比べ伸長する傾向を示すことを認めた。また,同培養系において,網膜への光刺激に応答して作動する神経ペプチドPACAPをScg2 KOマウスおよび対照マウスの視交叉上核切片培養液に添加すると,発光リズム位相の変位が認められた。以上,アショフの法則がより顕在化しているScg2 KOマウスが個体レベルで示す恒明条件下での概日行動リズム周期伸長について,その成因を詳細に解析しうる視交叉上核切片培養系を樹立した。こうした観点から,当該研究はおおむね順調に進展していると判断した。
mPer2LucノックインScg2 KO二重変異マウスの視交叉上核培養切片を用いて以下の検討を行う。1.個体レベルで見られた光刺激感受性の再現:マウスを12:12時間明暗サイクル条件あるいは350ルクスの恒明条件下で1週間飼育し,Scg2 KOマウスにおいて対照マウスに比べ恒明条件での概日行動リズム周期のより強度の伸長を確認した後,視交叉上核切片を調製,培養し,Scg2 KO群において概日発光リズム周期伸長に対する恒明条件の効果がより強度であることを確認する。2.Scg2由来ペプチドの効果: Scg2 に由来するセクレトニューリン,BM66,マンセリン等の神経ペプチドを,培養開始当初あるいは開始後8日目から培地に添加し,Scg2 KOマウス切片において見られた概日発光リズム周期伸長を補正しうるか否かを検討する。3.Scg2由来ペプチドのPACAPに対する拮抗性:PACAPによる概日発光リズム位相変位をScg2由来ペプチドが補正しうるか否かを検討する。また,視交叉上核への非光性入力の伝達物質であり,光刺激と拮抗するneuropeptide Y(NPY)についても同様の検討を行い,Scg2由来ペプチドの効果と比較する。
アショフの法則の機構解明に向け極めて有効な実験系を提供すると期待されたmPer2LucノックインScg2 KOホモ接合型二重変異マウスの作出が,両遺伝子の連鎖のため難航したが,最近これに成功し,今後,同マウスを用いた精緻な追加実験を行うことが可能になり,またそれが必須と考えられたため。
mPer2LucノックインScg2 KO二重変異マウス由来の視交叉上核培養切片を用いた実験に使用する合成ペプチド,一般試薬等の物品費に充当する。また,概日発光リズムの膨大なデータ解析に補助を必要とするため,人件費に充当する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件)
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