研究課題
IGF-1は、その分子内のA及びBドメインを介してIGF受容体に結合し、多様な生理作用を示すことがよく知られている。しかし、角膜、皮膚の上皮細胞の遊走促進作用や創傷治癒促進作用は、IGF-1のこれらの部位にはなく、これまで生理作用が知られていなかったCドメイン、更にその中の4個のアミノ酸のSer-Ser-Ser-Arg(SSSR)に由来することを明らかにして来た。実際、皮膚の創傷治癒及び表皮細胞の遊走促進は、合成したSSSRペプチドで認められた。昨年度までの研究で、このSSSRによる表皮細胞遊走促進作用には、IGF受容体が関与していないことを明らかにしている。今回、アンギオテンシンIIが、SSSRの作用に関与していることを明らかにした。即ち、SSSRの表皮細胞遊走促進作用は、アンギオテンシンIIタイプ1受容体(AT1R)の阻害薬で消失した。この際、AT1Rからの三量体G蛋白質を介した経路ではなく、βアレスチンを介したシグナル経路が関与していることを明らかにした。さらに、AT1RのみならずアンギオテンシンIIタイプ2受容体(AT2R)も同時に活性化することが必要であることも分かった。さらに、これらのアンギオテンシンII受容体の活性化は、TGF-betaを増加させてTGF-beta受容体を活性化させ、さらにEGF受容体を活性化して表皮細胞遊走促進作用を発揮することが明らかとなった。この際、EGF受容体の活性化がEGF等のリガンドを介さずに引き起こされた。これらの結果は、IGF-1のCドメイン或いはSSSRが、これまでに知られていない新しい作用機序で創傷治癒を促進することが明らかとなった。今回、明らかにしたSSSRからのアンギオテンシンII、TGF-betaを介したシグナルは、いずれも局所のオートクリン、パラクリンとして働くもので、副作用が少ないことが予測される。今後、アンギオテンシンIIの上流のシグナルを明らかにしてゆく予定である。
2: おおむね順調に進展している
IGF-1のIGF受容体非依存性シグナル解析において、これまで機能の知られていないCドメイン内の4つのアミノ酸からなるSer-Ser-Ser-Argが創傷治癒促進作用を担っていること、さらに、この作用がこれまでに知られていないアンギオテンシンII、TGF-beta受容体、EGF受容体を介する新たなシグナル伝達系を介することを明らかにした。これらは、創傷治癒促進薬の開発につながる大きな成果であると共に、IGF-1の生理作用の新たな分子メカニズムの解明に貢献するものである。
SSSRペプチドによる創傷治癒促進効果について、アンギオテンシンIIを介することから、その上流シグナルを明らかにしてその全容を解明する。さらに、このシグナル伝達系が、in vivoの創傷治癒過程でも働いていることをシグナルに関与する蛋白質のノックアウト・マウスを用いて明らかにする予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件)
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