本研究は、中和抗体様にTGFβ1蛋白との結合によってTGFβ1の作用を阻害する低分子化合物の開発に向けた萌芽的検討を目的とした。研究には産総研による分子シミュレーションシステムmyPrestoを用いた。研究期間中、TGFβ1蛋白の三次元構造の解析によって設定した3種類の化合物結合グリッドについて検討し、化合物阻害効果を比較した。 条件(1):単量体TGFβ1構造内のII型受容体との結合部位にある窪みの狭い結合グリッドとLigandBox化合物 (200万化合物、産総研:分子量300~400)との結合親和性、条件(2):II型受容体結合部位全体の広い結合グリッドと自然由来化合物 (7.5万化合物、IBS社:分子量500~700) との結合親和性、さらに、条件(3):TGFβ1表面の受容体結合部位とは異なるアロステリック部位とLigandBox化合物との結合親和性を計算し、各条件でスコア上位の化合物の効果を実験で検討した。 TGFβ1によって肺癌細胞株A549細胞の上皮間葉移行が生じ、この際細胞は敷石状の上皮様密集増殖から線維芽細胞様の非密集増殖へと形態と増殖パターンの変化をきたす。これを指標に各化合物のTGFβ阻害効果を検討したところ、何らかの阻害作用を示したものは、条件(1):386個中11個、条件(2):30個中0個、条件(3):96個中5個であった。さらに、条件(3)での計算をヒット化合物の情報をもとに機械学習MTS法で再度行ったところ、追加購入した20化合物のうち3個が効果を示した。 本研究により、TGFβ1の作用がリガンド側への結合で低分子化合物により阻害できること、さらに受容体結合部位よりアロステリック部位がその際の標的部位として適していることが明らかになった。今後、本研究成果をもとにより効果の高い化合物をデザインしてゆく予定である。
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