GSK-3βは平常時には活性化されており、心肥大を促進する遺伝子群の転写因子であるβカテニンをリン酸化しユビキチンプロテアソームシステムによる分解を促進することによって心筋細胞の肥大を抑制している。しかし、心不全時には、GSK-3βは活性化されたAktによってリン酸化され不活性化されるため心肥大が促進される。我々は、これまでにセレコキシブとジメチルセレコキシブがAktを阻害しGSK-3βの活性化することで心肥大反応を抑制することを明らかにし、これらの薬物によって心不全の進行を抑えることができる可能性を示した。セレコキシブはCOX2選択的阻害作用をもつため血栓形成を促進し心不全をむしろ悪化させる可能性が危惧されるが、ジメチルセレコキシブはCOX2阻害作用を持たないため心不全治療に特に有益である可能性がある。この可能性を証明するため、心筋トロポニンTΔK210突然変異による拡張型心筋症ノックインマウスをもちいて末期心不全に対する両薬物の治療効果を比較検討したところ、予想に反してどちらも心不全をむしろ悪化させるという結果が得られた。さらに、心筋トロポニンTΔK210突然変異による拡張型心筋症ノックインマウスとGSK-3βノックアウトマウスを交配し、心不全に対するGSK-3βノックダウンの効果を調べたところ、その効果は心臓保護的であることが明らかになった。本研究で得られた結果は、少なくともこの家族性拡張型心筋症においては、GSK-3β活性化による心肥大抑制は有害であり、むしろGSK-3β阻害による心肥大促進が有益であることを示唆している。
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