研究課題
挑戦的萌芽研究
糖鎖修飾は、分泌過程で生じる翻訳後修飾の典型的なものであり、分泌タンパク質や膜表面タンパク質の大半は、何らかの糖鎖修飾を受ける。その中で、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)修飾は、ゴルジ体において起きると従来は考えられていた。しかしながら、我々は小胞体におけるGlcNAc修飾反応を世界に先駆けて見出した。最初の例は、Notch受容体のO-GlcNAc修飾であり、小胞体に局在するEOGTにより触媒される。興味深いことに、エキソーム解析によりEOGT-Lの遺伝子変異が脳異常を伴う先天性筋ジストロフィー(Walker-Warburg症候群)の患者に同定された。EOGT-Lに遺伝子変異を有する患者は、脳室の拡大(水頭症)と脳回の消失(滑脳症)といった脳奇形や眼球異常を認め、生後数週間以内に致死となる。これらの症状は、従来知られる典型的なWalker-Warburg症候群と同様に極めて重篤である。本年度の研究で我々は、EOGTのホモログであるEOGT-Lが、O-マンノシル化されたジストログリカン(DG)をGlcNAc修飾することを見出した。EOGT-LによるDGのGlcNAc修飾は、O-GlcNAc抗体として知られているCTD110.6により検出されることを見出した。さらに、CTD110.6抗体を用いた免疫染色により、EOGT-LによるDGのGlcNAc修飾が小胞体において生じることを見出した。これらの結果より、EOGTとEOGT-Lは小胞体局在のGlcNAc転移酵素であることが明らかになった。EOGTとEOGT-Lは、FringeやPomGnT1などのゴルジ体局在のGlcNAc転移酵素とはアミノ酸配列の上で類似性を示さないことから、構造的に新たな仕組みでGlcNAc転移反応を触媒する糖転移酵素ファミリーであると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
EOGT-Lの生化学的解析は終了し、機能解析に研究が進展している。
Walker-Warburg症候群(WWS)やその主徴である滑脳症に関連するDystroglycanのGlcNAc修飾として、申請者らが報告したEOGT-Lによる小胞体GlcNAc修飾と、従来から知られるPomGnT1によるゴルジ体GlcNAc修飾がある。しかし、両者は、生化学的には独立した糖鎖修飾経路で作用するため、なぜ小胞体とゴルジ体のGlcNAc修飾が双方にDystroglycan機能に重要な役割を果たすかは、現段階では不明である。この問題を解決するために、EOGT-L/PomGnT2とPomGnT1の2重欠損マウスを作製し、大脳皮質層構造の異常を解析する。PomGnT2による小胞体GlcNAc修飾がPomGnT1によるゴルジ体GlcNAc修飾の機能発現の必要条件となる可能性、または、小胞体GlcNAc修飾とゴルジ体GlcNAc修飾が重複的な機能を有する可能性を想定している。前者では、小胞体・ゴルジ体GlcNAc2重欠損マウスは小胞体GlcNAc欠損マウスと同等の表現型を示すが、後者では、2重欠損マウスは小胞体GlcNAc欠損マウスより重篤な表現型を示すと考えられる。なお、成体マウスでの解析には、Nestin-Cre; EOGT-L/PomGnT2 floxedマウスを使用する。PomGnT2による小胞体GlcNAc修飾がPomGnT1によるゴルジ体GlcNAc修飾の機能に必要である場合、各変異体におけるDystroglycanの局在について、免疫組織染色により解析し、小胞体GlcNAc修飾がDystroglycanの小胞体からゴルジ体への輸送、又は、基底膜への局在に必要か検討する。一方、小胞体GlcNAc修飾とゴルジ体GlcNAc修飾が、独立してポストリン酸糖鎖伸長に関与し、重複的な役割を果たす場合は、PomGnT2のトランスジェニックマウスを作製し、PomGnT1変異体の表現型がrescueできるか検討する。
EOGT-Lのキメラマウスが不妊であるため、ヘテロマウスが現段階では得られておらず、一部の予定実験が、次年度に繰り越しになっている。キメラマウスから精子を採取し、C57BL/6の卵子と受精させるICSIレスキュー実験を大阪大学と共同で実施する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (5件) 図書 (2件)
Biochem Biophys Res Commun
巻: 440 ページ: 88-93
10.1016/j.bbrc.2013.09.022.
J Biochem
巻: 153 ページ: 31-41
10.1093/jb/mvs116.
J Biol Chem
巻: 288 ページ: 24264-24276
10.1074/jbc.M113.455006.
巻: 153 ページ: 347-354
10.1093/jb/mvs154.
巻: 154 ページ: 195-205
10.1093/jb/mvt044.