研究課題
挑戦的萌芽研究
EMARS法によって、種々のガングリオシド発現メラノーマ及びメラノサイト、そしてグリオーマ及び初代培養アストロサイトに対して、膜分子プロフィールの比較検討を試みた。また、メラノーマ細胞におけるNeogeninを中心に、その転写活性化促進機構を検討した。1. メラノーマ細胞株SK-MEL-N1と、その糖鎖改変亜株及びメラノサイトを用いて、EMARS-質量分析 (MS) を実施した。各々の糖脂質糖鎖の近傍タンパク質群のプロフィールを比較検討し、その中から代表的分子を選定し、脂質ラフトへの局在の生化学的及び糖脂質との共局在の検討を行った。GD3を標的にしたEMARS反応の結果、Neogeninが同定され、GD3発現細胞のみで本分子が脂質ラフトに局在することを実証した。また、GD3とNeogeninとの結合について、抗Neogenin抗体によるGD3の共沈降が示され、相互作用が強く示唆された。一方アストロサイトでは、GD3近傍分子としてPDGF受容体(R)alphaが同定され、グリオーマ細胞の悪性形質の増強作用メカニズムの一端が明らかになった。2. メラノーマのGD3近傍分子として同定したNeogeninの細胞内ドメイン(NeICD)(γセクレターゼ分解産物)につき、発現と機能の検討を行った。GD3発現細胞では、プロテアソーム阻害剤存在下で著明なNeICDの発現が認められた。さらに、GD3陰性細胞にNeICDを強制発現させたところ、増殖、浸潤等の悪性形質の増強が認められた。3. NeICDの発現効果として、既知の標的遺伝子の発現を検討し、予想通りGD3発現細胞で有意の発現レベルが認められた。さらにNeICDの未知標的遺伝子の同定のために、抗NeICD抗体を用いたゲノムのチップシークエンス(CHIP-Seq)を実施中であり、同定された遺伝子の悪性形質への関与を検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
メラノーマ、グリオーマ及びそれらの正常カウンターパート細胞に対するEMARS反応を実施して、いくつかのガングリオシド関連分子を同定できたこと。また、Neogeninを中心に、細胞質ドメイン断片が転写因子として働くことを、具体的な転写活性や、種々の阻害剤の使用によって実証できたことから、順調に進展していると思われる。さらに、新しい標的遺伝子の探索を順調に進めており、ガングリオシドによる癌の悪性形質の具体的な実行分子と作用機構が明らかにされるものと期待できるから。
これらの研究の継続・発展をめざすとともに、グリオーマと正常グリアの比較検討、および胎児期(E13.5)の神経系細胞と各種ガングリオシド欠損マウス新生児脳からの初代培養細胞間の検討を行う。とくに、メラノーマのGD3によるNeogeninの如く、他の系でも同様に膜上の糖鎖近傍分子(断片)の転写活性を追究し、膜ミクロドメインでの分子間相互作用と、そこから核での転写制御に至る糖脂質のシグナル調節機能を明らかにする。1. 細胞膜ミクロドメインにおけるスフィンゴ糖脂質と近傍膜分子との相互作用の解析を進める。まず、糖脂質糖鎖と膜分子との共沈降実験、native-PAGEを行った後、タンパク質上の糖鎖認識部位を特定する。そのために、i. シアル酸含有糖脂質であれば、細胞膜近傍の塩基性アミノ酸clusterに注目して、アミノ酸変異挿入 mutantの作成実験を行う。ii. タンパク質をドメイン毎に発現させ、糖鎖結合部位の決定を行なう。さらに、糖脂質と膜タンパク質との分子ドッキングモデル実験を行い、結合のキネテイクスや特異性を検討する。また、近傍分子のタンパク質結晶化による糖脂質との複合体の構造解析をめざす(名市大・加藤晃一博士との共同研究)。2. グリア細胞およびグリオーマ細胞株を用いて、同様にEMARS法による糖脂質の近傍分子の同定とその機能解析を行なう。そのために、糖鎖欠損マウスの脳由来の初代培養神経系細胞を用いる。また、グリオーマとして、現在作成中のRCAS/t-vaニワトリウイルスベクターを用いたマウス誘導グリオーマ細胞を用いる(名大・脳外科・百田博士との共同研究)。さらに、初代神経系細胞を用いて同様の比較検討を行う。3. 膜ミクロドメインにおける糖脂質と近傍分子との会合の単分子イメージングを行い、その超高感度観察による時空間的動態を明らかにする(京大・鈴木健一博士との共同研究)。
本年度には、メラノーマ、メラノサイトを用いてのEMARS法によるガングリイオシド近傍分子の同定と、それらのガングリオシドとの相互作用の生化学的解析を中心に解析を行なった。その結果、着実な進展をみたものの、学会発表や雑誌への投稿までには至らず、従来の実験に供してきた種々の試薬等で一程度の費用がまかなえたことが一つの要因である。また、GD3関連分子として同定したNeogrninの細胞質ドメイン、NeICDの機能に関して、NeICD発現ベクターを用いた解析によりある程度の成果が得られた。順調に行っていれば、NeICDが認識する標的遺伝子の網羅的探索と個々の遺伝子産物の機能解析を本格的に進められる可能性もあったが、ChIP-シークエンス解析のための基礎実験に思ったより長い時間と多くの努力を要したために、未使用額が生じた。メラノーマ細胞、メラノサイトにおいてNeICDが認識する標的遺伝子の網羅的探索を行なうために、ChIP-シークエンス解析を進める。よって、抗体類、広範なクローンのDNA塩基配列決定、全長cDNAクローンの取得を大体的に行なう。また、個々の遺伝子産物の機能解析を本格的に進めるために、多くのcDNA発現ベクター構築と機能解析に用いる種々抗体類の購入する。さらに、グリアとグリオーマ等の他の細胞系列を用いて同様の取組みを行なう。
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