研究課題/領域番号 |
25670141
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
古川 鋼一 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80211530)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | スフィンゴ糖脂質 / ミクロドメイン / 細胞膜 / 転写因子 / ネオジェニン |
研究実績の概要 |
スフィンゴ糖脂質は細胞膜脂質ラフトにて、細胞増殖や分化などのシグナルの調節に働くが、そのメカニズムは不明である。今回、癌関連糖脂質、神経細胞に高発現する糖脂質の近傍に局在する分子群を同定し機能解析することで、各糖鎖に固有のミクロドメインの構成と機能を明らかにした。まず、メラノーマのGD3を標的に同定したneogeninの、γセクレターゼ分解産物(細胞質ドメイン:NeICD)が転写因子としてメラノーマの悪性形質発現分子の誘導に働くメカニズムを解析した。 メラノーマにおけるGD3との相互作用分子として同定されたneogeninは、GD3-細胞に比して大量に脂質ラフトに局在すること、γセクレターゼ活性に依存してNeICDのレベルがGD3+細胞で著増することが判明した。また、NeICDの強制発現により細胞増殖能、浸潤能の亢進が認められた。さらにNeICDの標的遺伝子の探索と動態を検討した。まず、既知の標的遺伝子として、Raptor、CCM2、MACF1の発現を検討し、GD3+細胞で発現増強が認められ、癌性形質増強への関与が示唆された。さらに、NeICDの未知の標的遺伝子を同定するために、抗NeICD抗体を用いたゲノム断片の免疫沈降/シークエンス(CHIP-Seq)を行った結果、約25種の新規遺伝子が同定された。糖脂質糖鎖の発現とこれらの発現レベルの関連が明らかになったことから、メラノーマの悪性形質への関与が示唆された。 培養アストロサイト、RCAS/t-va誘発グリオーマおよびヒトグリオーマ細胞株を用いて、同様にEMARS法によるGD3,GD2近傍分子の同定を行い、各々PDGF受容体alpha、EphAなどを同定した。PDGFRalphaはGD3と特異的に結合し、さらにSrcファミリーキナーゼYesと3分子複合体を形成して、グリオーマの悪性形質を増強することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初めざした細胞膜のスフィンゴ糖脂質糖鎖によるシグナル制御機構として、細胞膜から各内の転写因子をリンクしたダイナミックなメカニズムの解明として、大筋は達成できた。即ち、メラノーマの関連糖脂質GD3の近傍に存在するネオジェニンの発現や機能、GD3との相互作用、細胞質ドメインのガンマセクレターゼによる核内移行と転写因子としてのDNA結合性の検討等は十分に実施できて納得のいくデータが得られた。20以上得られた標的遺伝子候補の中で、特に重要なものの機能を解析中である。また、まだ再現性を確認すべき事項が残っており、それを終了して論文を執筆する予定であり、進行中の他の腫瘍細胞における他の糖脂質関連分子の解析とともに、若干残された課題が存在する。
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今後の研究の推進方策 |
メラノーマ以外の、グリオーマ、肺癌、腎癌などにおける他の癌関連糖脂質糖鎖を標的にしてのEMARS反応と質量分析により、様々な癌細胞における糖脂質によるシグナル制御の特徴を明らかにして、それらの普遍性と独自性を明らかにした。 メラノーマ細胞で、GD3の近傍分子としていくつかの分子を同定して、まずネオジェニンの動態と機能、GD3との相互作用、細胞質ないドメインの転写因子としての役割を明らかにしてきたが、その他の近傍分子の詳細に関しては手つかずの状態である。他の候補分子の役割や動態に関しても、ネオジェニンと同様に解析を進めたい。 さらに、ChIP解析によって、ネオジェニンの細胞質ドメインの転写因子としての標的として同定された約20個の遺伝子について、各々の遺伝子における結合部位と、それらの発現に対する正または負の作用のメカニズムについて、詳細を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ガングリオシド関連分子の転写因子としての機能解析の中で同定された標的遺伝子に関して、NeICDによる具体的な制御機構と遺伝子産物の癌細胞における役割の解明が課題として残ったので、その概要を明らかにするための実験が平成27年度にずれ込んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝子発現の解析のために、細胞培養、cDNA導入およびsiRNAによるノックダウン、RNA抽出、リアルタイムRT-PCR等を実施する。また、細胞形質の変化を明らかにするために、細胞像職能、浸潤能、細胞接着能、移動能等の検討を各遺伝子に対して実行する。
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