研究課題/領域番号 |
25670158
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
中島 修 山形大学, 医学部, 教授 (80312841)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 5-アミノレブリン酸 / ALAS1 / ヘム / 糖尿病 / インスリン抵抗性 / ミトコンドリア異常 / 糖代謝 / 骨格筋 |
研究実績の概要 |
ALAS1遺伝子破壊マウスヘテロ接合体(HT)が、15週齢以降のHTで、骨格筋での糖の取込異常が原因と推測される耐糖能異常・インスリン抵抗性を示すことを25年度に明らかにした。この異常はALA経口投与により改善することも明らかにした。 26年度では、HTでの糖代謝異常に対する肝での糖新生の影響を検証した。絶食時血糖に有意な差はなく、OGTT時の血清グルカゴン量はHTが野生型と比較して有意に減少し、糖新生を律速するG6Pase mRNAレベルも減少していることから、肝臓での糖新生の異常亢進が原因で、HTで認められるインスリン抵抗性が起こる可能性が低いことがわかった。 HT骨格筋でのインスリンシグナル分子の解析を行ったところ、Glut4と同様に野生型と顕著な違いを見出すことは出来なかったため、HTではインスリンシグナルはほぼ正常であることが示唆された。 また、電子顕微鏡解析から、HT骨格筋でミトコンドリアに形態異常が観察され、HT骨格筋でのミトコンドリアDNAレベルの低下、ミトコンドリア形成調節の中心分子であるPGC1a mRNAレベルの低下を認めた。さらに、トレッドミル試験によるHTの運動耐性が低下を観察したことから、HTでは筋肉の機能低下を伴うミトコンドリア異常があることがわかった。なお、糖代謝異常を示さない15週齢以前の幼若なHTではミトコンドリア異常は認められなかった。 HTでのミトコンドリア異常・運動耐性低下は、インスリン抵抗性と異なり、1週間のALA経口投与では改善されなかった。この結果から、骨格筋でのミトコンドリア異常がインスリン抵抗性をもたらす、必要十分な原因ではないことが明らかとなったことから、27年度では、さらにインスリン抵抗性をもたらす分子メカニズムの解明を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ALAS1遺伝子破壊マウスヘテロ接合体(HT)において、当初、見出した耐糖能異常、インスリン抵抗性に加え、電子顕微鏡解析の結果から、予想していなかった、骨格筋でのミトコンドリア異常を見出し、HTの糖代謝異常の発症に関わる可能性のある新たな異常を発見することが出来た。2型糖尿病患者の多くに、ミトコンドリア異常が認められ、インスリン抵抗性をもたらす、有力な原因の1つと考えらえており、HTでのインスリン抵抗性をもたらす原因の解明に近付くことが出来た。しかし、ALA投与実験などの解析の結果から、HT骨格筋でのミトコンドリア異常がインスリン抵抗性をもたらす必要十分な原因ではないことが分かったため、今後、さらにインスリン抵抗性を惹起する分子メカニズムの解明を進める必要がある。 また、26年度に、培養細胞モデルとして、筋肉系培養細胞株C2C12を用いて、ALAS1ノックダウン株を樹立した。今後、この培養細胞モデルを用いて、より詳細な分子生物学的解析を進めることが可能となっている。
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今後の研究の推進方策 |
ALAS1遺伝子破壊マウスヘテロ接合体(HT)におけるインスリン抵抗性惹起のメカニズムは糖尿病病態をもたらす、新しい、重要な糖代謝制御機構の解明に繋がる可能性があると、考えており、今後もインスリン抵抗性惹起の分子機構の解明を進める。新たに、見出したHTでの骨格筋ミトコンドリア異常はALAS1欠損により起こる重要な異常であると考えらえるが、インスリン抵抗性惹起の必要十分な異常でないことが判明したため、インスリン抵抗性が糖代謝制御のどの過程の異常と関連しているかをさらに追及する。特にインスリンシグナル分子の異常が見いだされなかったことから、HTでの糖代謝制御でのいずれの過程に異常が認められるかを慎重に検討する予定である。 また、26年度に、培養細胞モデルとして確立した、筋肉系培養細胞株C2C12ALAS1ノックダウン株を利用して、分子生物学的解析を進める予定である。
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