研究課題
自然退縮はがんの不可思議な現象の一つであり、治療応用にも直結する重要テーマであるが、現実にはこれまで糸口さえ得られていない。我々は神経芽腫のモデルMYCN Tgマウスに、ヒト神経芽腫1期の自然退縮に酷似した表現型が出現することを見出した。さらに生後2週の早期がん全例のsphere cultureに成功した。この基盤を生かして、本研究で自然退縮の分子機構を明らかにすることを目的とした。昨年度は特に、遺伝子発現、変異のシステマティックな解析のために、早期がんtumorsphereに加えて、胎生期の交感神経節からもMYCN Tgマウスでsphereを作ることに成功した。一方、野生型でもsphere形成は起こるのだが、MYCN Tgマウスからのsphereのみが継代でき、しかも腫瘍形成能があることが分かった。すなわち、少なくともこのモデルでは予想よりもずっと早くから癌化が始まっていることが示唆された。以上の状況から胎生期E13.5~生後2週~末期腫瘍の3点を材料にゲノム、トランスクリプトームのレベルでの詳細な解析が神経芽腫のがん発生過程解明に繋がり、その基盤の上に自然退縮機構を見出せると考えた。本年度はこれらの材料のうち特にE13.5の交感神経節からのsphereをもとに解析を進めた。その結果、野生型マウスsphereとMYCN Tgマウスsphereの間には明らかな遺伝子発現プロファイル(mRNA, lncRNAを含む)の違いがあることが判明した。両者の間で1.5倍以上有意に変化がある遺伝子群にはMYCN下流遺伝子群をはじめ、きわめて特徴的な機能を持つ遺伝子群が含まれていた。一方、ゲノムレベルの異常はほとんど見られなかった。これらの成果は、今後自然退縮の機構をたどる大きな礎となるばかりでなく、遺伝子変異のほとんどない小児腫瘍の発生機構を解く大きなヒントを与える結果となった。
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