研究課題
挑戦的萌芽研究
ヒトcFLIPs遺伝子をX染色体で選択的に発現するトランスジェニック(Tg)マウスを樹立したところ、Tg陽性の♂マウスは全ての個体が胎生致死となるのに対して、♀の個体の多くは正常に出生し、妊娠もすることが明らかとなった。組織学的な解析からは、ユビキタスなプロモーターであるCAGプロモーターを用いてcFLIPs遺伝子を発現させているにもかかわらず、胎生18.5日目の♂Tgおよび♀Tgでは、腸管上皮細胞が選択的に細胞死に陥り、脱落している事が明らかとなった(♀に比べて♂の変化は重篤であった)。活性化型カスパーゼ3抗体による免疫染色や電子顕微鏡の所見から、死んだ上皮細胞には活性化型カスパーゼ陽性のアポトーシスに陥った細胞とネクローシスに陥った細胞の両者が存在することが明らかとなった。興味深いことにこれらの♂の胎生致死の表現型は、完全ではないものの♂Tgマウスをネクロプトーシスの実行因子として考えられているRIPK3欠損マウスと交配することで抑制され、さらに腸管上皮細胞死も抑制された。このことはcFLIPsの過剰発現がin vivoでRIPK3依存性の細胞死を誘導していることを示している。また増殖に関与するRegIIIbやRegIIIgの腸管の免疫染色を行ったところ、野生型マウスの胎生期には通常では陽性とならないこれらの両分子ともTgマウスでは発現していることを見出した。♀Tgの個体は、胎生期に腸管上皮細胞死が認められるにもかかわらず、出生後は正常に発育し、腸炎等の症状を呈さないことを考慮すると、胎生期に死細胞から何らかの増殖因子が放出され、代償性増殖機構が働いていると考えられる。そこで♀胎生期の腸管を用いてマイクロアレイ解析を行ったところ、複数の増殖因子の発現が上昇していたことから、現在その候補遺伝子の絞り込みをおこなっているところである。
1: 当初の計画以上に進展している
当該年度において予定していた以下の全ての研究は既に終了し、死んだ腸管上皮細胞から放出され、代償性増殖に関与する因子の同定の最終段階にきていることから、予想以上に計画は進捗していると考えられる。1) RIPK3欠損マウスとcFLIPs X-Tgマウスとの交配2) timed matingを行い、cFLIPs X-Tgマウスの致死の原因の解明3) 代償性増殖に関与するRegIIIb, gの免疫染色と陽性細胞の同定4) 腸管を用いた活性化型カスパーゼ3に対する免疫染色と電子顕微鏡による観察5) cFLIPs X-Tgマウスの腸管を用いたマイクロアレイによるゲノムワイドなトランスクリプトーム解析
トランスクリプトーム解析の結果、腸管上皮細胞から放出され、代償性増殖に関与する遺伝子の候補は複数同定できたものの、どの因子が最終的に重要なのかを絞り込むのが最重要の課題であると言える。そのために候補となった遺伝子産物に対する抗体が必ずしも利用できないことから、in situ hybridizationを行い、腸管上皮死細胞に高発現している因子に絞り込む予定である。絞り込んだ因子については遺伝子欠損マウスを入手あるいは、独自に樹立し、代償性増殖における役割を明らかにする。さらにcFLIPs X-Tgマウスで、細胞死が誘導されるメカニズムを明らかにするために、抗Flag抗体(トランスジーンしたcFLIPsはN末にFlagタンパク質との融合タンパク質として発現するため)でcFLIPs分子を免疫沈降し、共沈してくる分子を同定する。
cFLIPs X-Tgマウスは♂が致死なことから繁殖状態が不良であったが、優先的に実験に使用していたために、RIPK3欠損マウスと交配したマウスの腸管を用いたマイクロアレイの解析ができなかったため。現在はRIPK3欠損マウスと交配したcFLIPs X-Tgマウスの腸管のRNAは既に取得しており、今年度にマイクロアレイ解析を行う予定である。
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