研究実績の概要 |
目的 成体マウスにおける糖ヌクレオチド輸送体SLC35D1の誘導的遺伝子破壊は、腸管絨毛の機能異常を引き起こし、下痢の発症による衰弱の後、個体死に至る。本研究は、この現象を解析することにより、腸管ホメオスタシスにおけるSLC35D1の機能を明らかにすることを目的とする。前年度の研究により、SLC35D1が欠損すると、腸管上皮幹細胞の増殖分化が欠損することが判明した。本年度は、引き続き個体レベルでの分析を行い、さらに、腸管組織から上皮細胞組織体(オルガノイド)を分化誘導し、in vitro での分析を行った。 方法 SLC35D1フロックスマウス系統にタモキシフェン(TXF)により活性化されるCreリコンビナーゼ遺伝子を導入したマウス[SLC35D1(flox/flox)CreERT]の腸管より、クリプトを採取、マトリゲル内に封入、EGF、Noggin,R-spondinを含む培地でオルガノイドを誘導した。TXFの存在下の培養により、SLC35D1遺伝子の破壊を誘導、経時的にサンプルを採取し、遺伝子生化学的および組織化学的な解析を行った。 結果 TXF投与から4日後に、オルガノイドの細胞増殖は顕著に低下した。このサンプルを用いて糖鎖分析を行ったところ、20%程度のコンドロイチン硫酸含量低下が観察された。これらの結果は、マウス個体で行った観察とよく一致した。オルガノイド細胞増殖の低下について、モルフォゲンのシグナル伝達、細胞内ストレス、アポトーシス誘導の視点で分析を行った。しかし、いずれも細胞増殖低下の原因に直接つながる異常は観察されなかった。一方、マウス個体を用いた解析では、腸管絨毛の形態異常と並行して、炎症性サイトカインのIL6やTNFの発現が上昇することを見いだした。SLC35D1欠損により発症する下痢や絨毛構造の異常は、炎症により惹起、増悪される可能性が考えられた。
|