研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究の目的は、遺伝病患者および正常人において同定されたゲノム微細構造異常の解析により、これらの発生に関与する遺伝的因子と環境因子を解明することである。本年度は、下記の成果が得られた。1.アロマターゼ過剰症を招くゲノム再構成の解明:臨床的にアロマターゼ過剰症が疑われる患者のゲノムコピー数解析を行い、新規患者6家系を同定した。これら6家系と既報3家系のゲノムコピー数解析を行い、下記の点を見出した。1)アロマターゼ過剰症の発症には少なくとも11種類の15番染色体長椀ゲノム微細構造異常が関与する。これには、重複、欠失、逆位、および複雑構造異常が含まれる。2)これらのゲノム構造異常は、CYP19A1遺伝子翻訳領域またはプロモーター領域のコピー数数増加、もしくはCYP19A1による広範囲発現性プロモーターの獲得を介してCYP19A1過剰発現を招く。3)これらゲノム構造異常の発生には、組み換え異常と複製エラーが関与する。4)患者の疾患重症度は、獲得プロモーターの機能を反映する。2. SHOX異常症を招く性染色体微細構造異常の同定:ランガー中肢骨短縮症候群患者1例において、性染色体擬常染色体領域の複合ヘテロ結合性微細欠失を同定した。1つの欠失には、SHOX遺伝子エクソンが含まれていた。もう一方の欠失は、既報のSHOX下流エンハンサー領域の近傍であった。この成績は、SHOX遺伝子に複数の遠位エンハンサーが存在する可能性を示唆する。3. SOX2遺伝子欠失を招く機序の解明:眼球形成異常症患者におけるゲノムコピー数異常を同定し、その切断点を決定した。この解析によって、SOX2半量不全が多彩な微細欠失によって生じること、またこのような欠失の一部はAlu配列によって誘導される可能性が高いことを見出した。
2: おおむね順調に進展している
おおむね計画通りの進展がみられた。アロマターゼ過剰症、および、稀な先天奇形症候群であるランガー中肢骨短縮症とSOX2遺伝子異常症の発症に関与する新規ゲノム再構成を見出した。さらに、その発症メカニズムについて検討した。これらの成果は複数の英文論文で発表した。さらに、さまざまな性分化疾患および先天奇形症候群患者におけるゲノムコピー数解析を開始し、微細染色体構造異常を同定した。また、先天奇形症候群の原因となる染色体欠失を招く環境因子の解明に着手している。
1.ヒト疾患に関与する染色体構造異常の発症機序の解明われわれは初年度にさまざまな性分化疾患および先天奇形症候群患者の臨床検体を集積した。さらに、これらの検体のアレイcomparative genomic hybridization解析によってゲノムコピー数異常を同定した。これには四肢奇形や生殖機能異常の発症に関与する微細重複などが含まれる。今後は、同定されたゲノム構造異常の切断点の決定を行い、その由来が非対立アリル間相同組換え、非相同末端再結合、複製エラーのいずれに該当するか解明する。さらに、切断点周辺領域における非古典的(Non-B)配列やパリンドローム構造、反復配列などの有無をin silico解析で検討し、ゲノム再構成を誘導するシークエンスモチーフや因子を明確とする。特に、性染色体と常染色体におけるゲノム再構成発症機序の異同について検討する。なお本研究では、全研究期間を通じて新規検体の集積と解析を行う。2.染色体構造異常に関与する環境因子の同定de novoゲノム異常を有する患者の解析によって、異常の親由来を決定し、両親の特定環境要因への暴露とゲノム構造異常発症の関連を明らかとする。たとえばわれわれは、初年度に正常男性精子DNAと環境因子暴露データを集積した。これらを利用し、プラダーウイリー症候群の原因となる15番染色体微細欠失の発生に影響を及ぼす環境因子の解明に着手している。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 5件) 備考 (1件)
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http://nrichd.ncchd.go.jp/endocrinology/