研究実績の概要 |
さまざまなドライバー変異を有する癌細胞を左心室内に接種し、系統的な転移モデルの作成を行った。実験に用いた肺癌細胞は、HCC4006 (EGFR変異株), H441 (KRAS変異株), H2009 (KRAS変異株), A549 (KRAS変異株), H2228 (ALK転座株), LC-2/ad (RET転座株), H1993 (MET増幅株), ABC-1 (NF1変異株)である。転移のステップとして細胞・基質間の接着低下が重要であると考えられていることから、長期間にわたり低接着プレート上で浮遊3次元培養することにより、肺腺癌の高転移株の作成もあわせて試みた。各々の細胞株にルシフェラーゼを導入後、NOD/SCIDマウスの左心室内にエコーガイド下で接種し、IVISによる発光の観察と組織学的な検討を行った。 左心室内接種により、HCC4006, H441, A549, H2228, H1993について転移モデルを作成できた。またH441, A549に関しては、低接着プレート上の浮遊状態で増殖する亜株(以下FL株)を得ることができた。FL株は通常の培養条件下では再接着し、親株に比して紡錘形への形態変化を示した。左心室内接種によりFL株は親株よりも高い転移能を有していた。 次いで高転移形成の分子機構を探るため、包括的な遺伝子発現、コピー数解析を行い、FL株において発現変動のある遺伝子、あるいはFL株で増幅を示す遺伝子領域を同定した。転移形成に関与する候補遺伝子、シグナル経路を阻害するこにより、in vitroでの段階ではあるが、FL株の転移形質を一部抑制可能であることが示された。 今回作成したさまざまなドライバー変異を有する癌細胞の転移モデル、長期低接着培養株による高転移モデルは、細胞・基質間の接着低下を介した転移形成の分子機構を探るうえで有効な手法である可能性がある。
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