幹細胞を取り巻く組織環境が個体の老化とどのような相関を持っているかの検証は、生体の恒常性維持や疾患発症の解明に非常に重要であるばかりでなく、今後期待される幹細胞移植が安全かつ有効な医療として確立していくためにも必須となる。 そこで本研究では、幹細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞を軸として、細胞老化や個体老化に伴う変化について検証し、特に細胞膜上変化が幹細胞とその周囲環境との相互作用への影響、さらには幹細胞の能力として考えられている種々の分泌因子産生能への影響について検討した。 細胞は細胞膜で囲まれており、その表層は糖鎖で覆われ、様々な状況により糖鎖が変化することが知られていることから、細胞表層の糖タンパク質や糖脂質の糖鎖情報について細胞老化や個体老化過程における変化を捉えることとした。 その結果、血管内皮細胞では糖脂質の一つであるガングリオシドが老化に伴って細胞膜上に増加していることを見いだした。またそれに伴って内皮機能としてシグナル伝達が減弱することを明らとし、さらに幹細胞刺激を促す分泌因子との関連性も示唆されるデータを得た。一方、線維芽細胞においては老化に伴って糖タンパク質上の糖鎖構造が一定の方向に変化していることがわかった。この糖鎖構造変化は、幹細胞でも認められて、その増殖能や分化能との相関性が示唆された。 これらの一連の結果は、組織内において幹細胞を取り巻く環境下で、そこを構成する細胞全体に、それぞれ加齢に伴って細胞表層糖鎖による相互作用を通して共通的な影響を反映して変化を起こし、生内の恒常性維持に寄与し、またその破綻による疾患に関与していることが示唆された。 幹細胞移植を行う際、移植した細胞が適切に機能を果たすためには、ターゲットとなる移植環境の状況を把握しそれに見合った細胞として移植する必要性があると考えられ、今後の重要な課題であると思われた。
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