転座型遺伝子変化の多くは、その由来細胞で転写が促進されている遺伝子とがん遺伝子が転座を起こすことがほとんどである。すなわち、転座が促進されている遺伝子のプロモーター下にがん遺伝子が位置するようになるため、がん遺伝子の転写も促進され、それが腫瘍増殖に寄与すると考えられている。そこで、EML4転写物は肺組織においては検出されるものの、ALK遺伝子の発現は認められず、EML4-ALK転座によって、EML4のN末蛋白とALKのC末キナーゼドメインとが転座を起こし、キメラ蛋白が生成される。その蛋白はEML4のBASICドメインを用いて恒常的にダイマーを形成し、ALKのキナーゼドメインを活性化させると考えられている。このため、ALKの5' 末と3'末の転写物は、転座があればその発現量に乖離が生じるはずである。これを定量的RT-PCRで計測することで、転座のよいスクリーニングになると考えられる。昨年度は、ALK転座の存在がわかっている15症例および正常型の症例40例で両者を明瞭に区別する方法を確立した。また、多くの臨床の現場で用いられているFFPEサンプノレでも応用可能かどうかについても検討を進めたが、有用な方法の確立には至らなかった。現在、転座型遺伝子変異としてROS1も治療の対象となりうるドライバー変異として知られており、臨床第三相試験も試みられている。そこで、ROS1についても検討を進めた。免疫組織化学法を用いてタンパクの発現を見たところ、ALK再構成とは異なり、正常細胞での発現を認めた。しかしながら、ROS1転写物の5' 末と3'末では差が認められ、うまくcut-off値を設けることでスクリーニングツールとして活用できることが明らかとなった。
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