本研究の目的は、我々が開発したFRETによる薬剤感受性試験を高感度化し、微少な薬剤耐性細胞検出能を飛躍的に向上させることである。本年度は以下の項目についての研究を行った。 1. バイオセンサー切断部位の同定と変異バイオセンサーの開発:我々の開発したバイオセンサーは患者由来の白血病細胞に導入した際に切断される場合があり、それにより耐性細胞検出能力が十分に発揮できない場合があった。昨年までにCrkL分子内に2ヶ所の切断部位があることを同定し、そのうち1ヶ所については変異を導入した改良型バイオセンサーを開発した。本年度は他の1箇所について検討した。まず切断部位を詳細に検討した結果、今バイオセンサーのセンサードメイン近傍に存在することが判明し、変異の導入が不可能であった。そこで、全長のFRETと切断型FRETの細胞内局在から、切断が細胞内の特定のドメインで生じているという仮説を立てた。それを実証するために、バイオセンサーに各種局在化シグナルを付加したバージョンを複数作製し検討したところ、切断が有意に抑制され検出感度が3倍程度向上した。この成果はPCT出願時した。 2. 多次元取得パラメータからの耐性細胞検出法:蛍光強度比と蛍光寿命の両パラメータからFRET効率の高低 を判断することで確実に薬剤耐性細胞を同定するアルゴリズムと判定法を確立し、検出感度の3倍の向上を達成した。このアルゴリズムと昨年検討した励起レーザー周波数の最適化で9倍程度の高感度化が達成できた。また単一成分蛍光寿命を持つ蛍光蛋白質の導入で3倍の感度上昇も達成済みである。 3.バリデーション:種々数の耐性細胞を含むサンプルを用意し、結果当初の目標であった1 ml中に含まれる数個の耐性細胞が検出できた。
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