研究課題
挑戦的萌芽研究
1.大量のクエン酸第一鉄をマウスに経口投与すると肝細胞を完全に死滅させ,肝内胆管のみをintactな状態で採取することが可能であった.上記胆管を含むグリソン鞘を細切し,コラーゲンゲル内に包埋培養すると,長期間にわたり増殖させることができた.また,胆管上皮の増殖はIL-6やTNF-αにより促進された.さらにグリソン鞘をプロナーゼ,コラゲナーゼで消化した後,EpCAM抗体を用い,磁気ビーズ法で胆管上皮細胞を単離することが可能となった.2.肝前駆細胞を誘導することが知られているDDC食をマウスに4週間与え,クエン酸第一鉄を投与したところ,増生した細胆管(オーバル細胞)のみならず,小葉の肝細胞も鉄傷害に耐性であることが判明した.3.正常マウス肝細胞と胆管上皮を含むグリソン鞘で鉄輸送・代謝に関連する各種遺伝子のmRNA量を定量RT-PCRで詳細に検討したところ,二価鉄イオンを取り込むトランスポーターであるDMT1やZIP14の発現には明らかな違いはないが,transferrin受容体,hepcidin 1の発現は弱く,鉄を排泄するferroportinの発現が高いことが明らかになった.これらの違いが肝細胞と胆管上皮細胞の鉄感受性を規定している可能性があると思われる.4.ストレス反応の1つであるJNK-c-Jun経路の重要なシグナル分子であるMKK7のノックアウトマウスを作製し,鉄傷害に対する感受性を検討した.ノックアウトでは感受性が低いことを示すデータが得られたが,個体差および性差が大きく,肝以外の障害(おそらく中枢神経障害)で早期に死亡する動物が多いため,さらに検討が必要と考えられた.
2: おおむね順調に進展している
1.鉄を大量に投与することで,肝細胞を死滅させ,胆管上皮細胞を純粋に採取する方法がほぼ確立できた.単離された胆管上皮細胞はコラーゲンゲル内で活発に増殖し,今後,さまざまな実験に有用である.2.肝幹細胞が増生すると報告されているDDC食を与えたマウスでは,増生した細胆管(オーバル細胞もしくは肝幹細胞)とともに肝細胞も鉄に耐性となった.これは予想に反した結果であったが,DDC食によるポルフィリン代謝異常が肝細胞の鉄感受性に与える可能性があり,新しい研究テーマになりうると思われる.3.JNK-c-Jun経路が鉄傷害に与える影響は,酸化ストレスへの対応における本経路の意義を検討する上でのテストケースとなると考えられる.昨年度の実験では明確にしえなかったが,今後,個体差,性差を踏まえた上で結論を出していきたい.
1.胆管上皮細胞のコラーゲンゲル内培養実験やマトリゲル上培養を継続し,胆管上皮の性質,表現型の可塑性について検討を進める.また,EpCAM抗体を用いた胆管上皮細胞の効率的な分離法を確立する.2.DDC食を与えたマウスの胆管上皮,肝細胞について,鉄輸送・代謝にかかわる遺伝子発現の変化を調べるとともに,培養下での性質の変化を検討する.3.MKK7ノックアウトの実験を継続し,JNK-c-Jun経路が鉄傷害に対する感受性に与える影響について結論を得る.
26年度で行う継続実験および新たな実験を遂行する上で必要であるため.研究期間内に適切に使用する予定である.
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