研究課題
胃の腺粘液に特徴的な糖鎖であるαGlcNAcを欠損したA4gntノックアウトマウスはピロリ菌が感染していなくても胃粘膜に炎症が生じ、自然に分化型胃腺癌を発症するユニークな疾患モデルである。A4gntノックアウトマウスの網羅的遺伝子発現解析から、新しいサイトカインであるIL-33およびその受容体構成分子ST2の胃癌発症への関与が示唆された。本研究の目的は、A4gntノックアウトマウスでの胃癌発症におけるIL-33の役割を明らかにすることである。平成25年度にST2をコードするIl1rl1遺伝子を欠損したIl1rl1ノックアウトマウスとA4gntノックアウトマウスを交配することで、A4gnt/Il1rl1ダブルノックアウトマウスの作出を開始した。平成26年度は10週令のA4gnt/Il1rl1ダブルノックアウトマウスが1匹得られたので、胃粘膜における各種炎症関連分子の発現を定量PCR法により解析した。その結果、A4gntノックアウトマウスと比べてA4gnt/Il1rl1ダブルノックアウトマウスで2倍以上に増加している分子として、Reg3b、Egf、Nos2、Mmp3、Grem1が同定され、逆に1/2以下に減少している分子として、Cxcl1、Ccl2、Cxcl5、Clec7aが同定されたことから、Il1rl1はこれらの分子を通じてA4gntノックアウトマウスの病態形成に関わっている可能性が示唆された。また、平成25年度から作製を開始したIl1rl1ノックアウトマウスの骨髄をX線照射したA4gntノックアウトマウスに移入したキメラマウス(Il1rl1-/- → A4gnt-/-)(40週令と50週令、それぞれ1匹ずつ)は野生型マウスの骨髄をA4gntノックアウトマウスに移入したキメラマウス(Il1rl1+/+ → A4gnt-/-)と同様に胃分化型腺癌が生じており、その両者の組織所見に違いは認められなかった。現在、新規ゲノム編集法を用いてA4gntノックアウトマウスに直接Il33遺伝子変異を導入することを試みており、平成27年度にはIL-33シグナルの胃癌発症における役割を明らかにできる予定である。
3: やや遅れている
当初計画では、今年度はA4gnt/Il1rl1ダブルノックアウトマウスの解析をもう少し進められる予定であったが、交配の過程で予想に反してA4gntとIl1rl1の両者が欠損したアリルを有するダブルノックアウトマウスが得られなかったため。
平成27年度はノックアウトマウスの表現型解析を進めるが、上記のようにA4gnt/Il1rl1ダブルノックアウトマウスが予定通り生まれず計画に遅れが生じていることから、新規ゲノム編集法を用いてA4gntノックアウトマウスに直接Il33遺伝子変異を導入することを試みており、計画の遅れを取り戻すべく実験を進めている。
当初計画で見込んでいた消耗品類を実際には安価で購入することができたことによる。
持ち越した次年度使用額は平成27年度に消耗品費と合わせて使用する。
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