研究課題
挑戦的萌芽研究
哺乳類の心筋細胞は個体誕生後増殖能を失う最終分化細胞であり、増殖・分化という観点からは、心筋細胞と癌細胞とは正反対の性質を持つ。しかし、視点を変えると、ストレスを課せられた心筋細胞で活性化される細胞保護シグナル、血管新生シグナルは、癌細胞でも活性化される癌の病態生理に重要なシグナルであることに気付く。このような癌細胞と心筋細胞とのシグナルの共通性に注目し、心不全における病的心筋細胞が、癌細胞と同様に、免疫学的監視機構の標的となりうる可能性を想起し、本研究を計画した。癌細胞に対する免疫学的監視機構では、細胞傷害性免疫細胞が癌細胞の膜タンパク質を認識し癌細胞を死に至らしめると考えられている。この膜タンパク質は、非常に興味深いことに、梗塞後心不全心筋細胞においても、発現増強することを見出してきた。本研究では、心不全発症における心筋細胞・細胞傷害性免疫細胞相互作用を解明し、新規心不全治療法を創成することを目的とする。これまで、以下のことを明らかにしてきた;1)マウスの冠動脈を結紮して心筋梗塞を作製し、免疫組織化学法にて上記の膜タンパク質の局在を検討したところ、梗塞領域と非梗塞領域の境界領域に残存する心筋細胞に発現していること2)心筋細胞と細胞傷害性免疫細胞との相互作用を抗体で阻害すると、心筋リモデリングが抑制されること。従来、心不全の進展に心筋細胞死が重要なステップであることが知られていたが、以上の結果は、心筋細胞死に免疫学的監視機構が重要な役割を果たしている可能性を示唆するものである。また、平成25年度後半から、ヒト心不全心筋サンプルを用いた研究を行っている。
2: おおむね順調に進展している
本研究全体を通じて、最も重要なポイントは、①細胞傷害性免疫細胞と病的心筋細胞との相互作用の意義を明らかにすること、②ヒト心不全において同様のシグナルが活性化されているかどうかを明らかにすること、にある。2年計画の1年目終了時において、①に関しては阻害抗体を用いた研究を行い結果を得ていること、②に関して既に着手していることから、おおむね順調に進展していると評価した。
今後以下の2点を中心に研究を推進する;① 心筋梗塞モデルにおいて、細胞傷害性免疫細胞・病的心筋細胞間相互作用の阻害抗体が心機能維持に果たす役割の解明;これまで、阻害抗体の心筋梗塞後リモデリングに対する作用を組織学的に明らかにしてきたが、機能的な検討を加える。② ヒト心不全心筋サンプルを用いて、心不全状態でヒト心筋細胞において発現増強する、細胞傷害性免疫細胞の標的分子を探索する。
免疫学的監視機構を阻害する抗体(抗Rae-1e抗体)を用いて、心筋リモデリングに対する抑制効果を検討したが、当初予想していた以上に、抗体の効果が顕著に認められ、費用の削減が可能になった。免疫学的監視機構を阻害する抗体による心筋リモデリング抑制効果の分子メカニズムを検討する。具体的には、梗塞後心筋における心筋細胞アポトーシスが、抗Rae-1e抗体により抑制されるかどうかを検討する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 2件)
PLoS One
巻: 437 ページ: e78961
10.1371/journal.pone.0078961.
Biochem. Biophys. Res. Commun.
巻: 437 ページ: 609-614
10.1016/j.bbrc.2013.07.010.
Clin. Lung Cancer.
巻: 14 ページ: 502-507
10.1016/j.cllc.2013.03.003.
Int. J. Cardiol.
巻: 164 ページ: 238-244
10.1016/j.ijcard.2012.11.051.
Eur. J. Clin. Pharmacol.
巻: 69 ページ: 1091-1101
10.1007/s00228-012-1429-9.
Int. J. Clin. Oncol.
巻: 18 ページ: 711-717
10.1007/s10147-012-0430-8.